「曰(いわ)く、家庭の幸福は諸悪の本(もと)。」 (『家庭の幸福』 太宰治)
日本語原文は青空文庫にある。
拙訳。「家庭の幸福」は domestic happiness としようかとも思ったが,どちらで訳しても「自国の幸福」とも読める。そう読むと,このことばの別の含蓄が拡がっていくのだが,ありきたりのナショナリズム批判になってしまうかもしれない。
「名言」の中には,人々の賛同を得られないものもある。これも好き嫌いがはっきりと分かれるものかもしれない。
これを嫌う人は,まったく意味がわからない人か,さもなければ身に染みてわかっているのに賛意を表するのははばかられる人であろう。反対に,このことばに同意する人のほうも,留保なしに大きくうなずく人と苦笑いをこめて肯定する人に分かれる。
積極的反対派,つまり太宰のことばを全否定する人は幸福な人,または,鈍感な人であり,鈍感さは幸福であるのに必要な資質と言えそうだから,いずれにしても幸福なのだろう。積極的賛成派,つまり全肯定する人は不幸な子どもである(実年齢は問わず)。多かれ少なかれ,子どもはみな不幸であるが。
結局こういうことばには,大人は全肯定も全否定もしない,できない。