著者: 山岸俊男・爆笑問題(太田光・田中裕二)|出版社:講談社|2007年|760円|高校生・一般向け|独断的おすすめ度 ★★★☆
社会心理学の紹介。
爆笑問題は研究室に到着するや,実験台にされてしまいます。この最初のカマシのせいか,太田の牙が抜かれて今回は少しおとなしめです。そのせいか,このシリーズの中では,学者と爆問とのかけあいがなかなかうまくかみ合っている方だと思います。山岸氏の提示のしかた,プレゼンテーションもうまくて,もちろん入門の入門の入門にしかなっていないとしても,読んでみると社会心理学への興味が湧いてくるのではないでしょうか。
心理学は昔の行動主義心理学の時代からよく実験をしていて,それで「マウスで実験して人間心理の何がわかるんだ」というある意味紋切り型の批判を浴びてきました。大昔わたしも図書館で「心理学概論」なる本を読み始めたものの,そんな話ばかりですぐに放り出してしまいました。でも時代は変わって,行動主義はすたれ,実験もちょっとばかりおもしろくなってきたようです。見知らぬ人同士のグループを対象にした実験で,協調して行動すれば全員に利益が少しあるが,自分だけ出し抜こうとすれば大きな利益になりうるという実験で,この実験を日本人とアメリカ人に行ってみると,日本人はおおかたの予想を裏切って,必ずしも集団の利益をアメリカ人より重視しているわけではないが,相互に監視しあう状況だとアメリカ人よりも集団志向になる,なんていうおもしろい結果が出ているそうです。(番組での実験では太田の一人勝ち。)
心理学というのは高校生には(一般にも)誤解されがちで,人間の心のひだの隅々まで知っているのが心理学者だと思っている人が多いのですが,心理学はふつう我々が使っているような意味のよろこびとか悲しみといった「こころ」を研究しているわけではないといった方がいいでしょう。そして「心理学」は個人を対象にしているのに対し,「社会心理学」は社会と個人の相互作用の中での心理を研究対象にしている学問です。
タイトルの「人間は動物である。ただし・・・」は,山岸氏の発想の基本形を簡略に言ったものなのでしょう。
山岸: だから問題の立てかたとしては二とおり考えられます。
「人間と動物とは違うのだ。なぜならば人間はむちゃくちゃ頭がいいからだ。どうしてそんなに頭がいいんだろう。」
「人間だって動物だ。それなのに人間は社会を作って暮らしている。どうしてそんなことができるんだろう。」
田中: ああ,センセイは後者なんだ。
山岸: そう。これが経済学者だったら,人間はむちゃくちゃ頭がいいっていう前提で理論を作る。むちゃくちゃ頭がよくて,自分の利益だけを考えて行動をする。
田中: しかし,さっきやったような実験ではそれを裏切るような結果が出る。
太田: さあ,どう説明する,経済学!
どうやら,社会心理学はゲーム理論を横糸にして,生物学-社会心理学-経済学をつないでいくという構想を抱いているようです。人文・社会科学系の中ではどちらかというとマイナーな社会心理学ですが,けっこう大きな野望を秘めているのですね。