東京大学教養学部編 |出版社:培風館|2005年|1300円|高校生・一般向け|210p.|独断的おすすめ度 ★★☆☆
東京大学が高校生向けに行っている講座を書籍化したシリーズの第2弾。第1巻目のレビューはこっちです。
第1巻は理系ものが多かったのですが,今回は文系が多め。1部の最初の二つだけが理系ネタです。第1巻ほどの発見はなかったな,というのが正直な印象ですが,わたし自身文系の人間ですからそっち系の方が多少知識がある分,評価がきつくなりがちかもしれません。
このシリーズは,文系・理系ごった煮になっていて,文・理を分けた方がどの学部に進学しようか迷っている高校生にはよかったのに...という考え方も当然あるでしょう。逆に文・理を完全に分けてお互いのことは何も知らないという現在のあり方に一石を投じる意味では,これでいいのだという考え方もありえます。まっ,実際には出版社の都合でこうなったんだろうとは思いますが。
この文系・理系の壁・対立の問題で有名なのは,1950年代にイギリスの小説家兼物理学者である C. P. Snow という人が書いた(講演だったかも) “Two Cultures” という文章で,その頃からすでに文理のミゾは問題になっていました。学問は日に日に専門分化していますから,文理両方に精通することはますます難しくなっている一方,そういう人材がますます必要になっていることは確かでしょう。
第2巻のもくじは以下のとおりです。
1部 情報
● 携帯電話と情報の世界 川合慧
携帯電話がつながる仕組みをごく簡単にですが解説しています。糸電話は実際は伝わってない!という説にはちょっとびっくり。
● ソフトウェアの科学 玉井哲雄
うーん,ソフトのことを全く知らない人には入門にはなるかも。でも,最近は高校の授業でも,もっと高度なことをやっているのでは?
● 時計と時間の歴史 橋本毅彦
日本人は電車の発着時刻に見られるように時間に非常にうるさく,細かい...と思われていますが,実は明治時代以前はすごくルーズだったという話がおもしろい。
2部 歴史と未来
● 日米関係の現在と未来 油井大三郎
● 欧州統合を考える 柴宜弘
● 国境紛争から地域統合への道 —中ロ関係の50年— 石井明
この3本は政治・外交史のはなしです。中ロ(中ソを含む)関係史が少し面白い。「学ぶことは自己を解放することだ」というフレデリック・ダグラスのことばが印象的。
● 21世紀に読み直す夏目漱石 半藤一利
この人は東大の教師ではなく,漱石研究では有名な作家です。学校の宿直制度は戦前の天皇の御真影(天皇・皇后の写真)を守るためであったそうな。
● 馬の世界史 —世界史を再考する— 本村凌二
この人は趣味が競馬だそうです。なるほどね。馬の歴史の本でJRAから賞をもらっている!
● 21世紀の日本社会を考える 山脇直司
公共哲学についてです。「滅私奉公」(お国のために国民は犠牲に)でもなく,「滅公奉私」(自分の利益が全て)でもなく,「活私開公」をとなえていらっしゃるのですが,なにぶんこのスペースではちょっと本格的議論は無理ですね。注目すべき分野ですが。
● 日本史の謎 三谷博
少しでも日本史をかじっていればおもしろいかな。ここではおもに明治維新の謎について語っています。なぜ武士は自らの身分を葬った(廃藩置県・身分制廃止)のか,なぜ維新という変革が「復古」(王政復古)というシンボルのもとになされたのか。
できたら,自分の関心のないものを読んでみるといいと思います。得意な分野を伸ばすことはだいじですが,ひょっとすると得意になれるかもしれないものとの出会いがないままに終わってしまうのもさびしいと思いますよ。