前回は英語の新聞・雑誌からの出題を扱いましたが,3回目の今回は,英語の書籍から大学入試問題に使われているものを取り上げます。
そもそも書籍に限らず,大学入試に使える英文はほんとうはかなり限られています。大学側が問題に出したい「ポイント」を含んでいなければなりませんが,といって専門的すぎる内容のものは使えません。また,受験生の語彙はどんな優秀な生徒でも現実の英語で使われる語彙に比べればごくわずかでしかなく,注をつけるにしても何十もの中で問題用紙を埋め尽くすわけにもいきません。そして量的にも他の問題や解答時間との兼ね合いで全文が掲載できないのがふつうです。ポイント,内容,量,語彙の難度などを勘案した上で出題文を選択するわけですが,そんなおあつらえ向きなものがごろごろころがっているはずものなく,したがっていきおい,
- 原文を大幅に改変(あちこちカットする,語彙を入れ替えるなど)して出題する
- 他大学で過去に出題された英文とバッティングしてしまう(いわゆる頻出長文)
- 他大学で過去に出題された英文を意図的に使う(いわゆる過去問再利用)
2 の頻出長文は,10年以上前に頻出長文を集めた問題集などがあちこちで出版され流行しました。そのせいか,当時取り上げられた頻出長文が今出題されることはかなり減りました。
3 の過去問再利用は,全体としては増えているようなのですが,英語に限ってはそれほど多くないのかもしれません(「入試過去問題活用宣言」のページを参照)。
というわけで,現在の主流は 1 の原文改変です。どのように改変されるのかについては,そのうち取り上げてみたいと思っています。
新たに入試に使える英文を探して,それに多少手を入れて出題するとしても,出題者が目を通せる英文の量も限られていて,出題に偏りが出たり,出題者に人気の英文なんてものが自然に見えてくることもあります。
あまり専門的なものは使えない,と先ほど言いましたが,これには例外があって,医学部・薬学部では比較的医学,薬学的な内容の英文が使われる傾向があります。一般には,たとえば文学部で自然科学,理工学部で文学論を出題することだってあるわけなのですが,医学部・薬学部では,さすがにあまりに専門に深入りしたものは出せないにしても,その学問に関係した内容(生物学の話題,医療倫理,病気や患者についての一般的話題など)を出すことにためらいはないようです。それにつづくのは,教育学部,看護学部と言ったところでしょうか。
「中堅大学」という呼び方が受験界には存在していて,何のことはない,偏差値から見た難易度がMARCH(ないしMARCH相当の大学)よりも下の大学のことです。なんだかなあ,という呼び名ですが,まあそれを使っておくと,「中堅大学」では大学生や一般向けのリーディング用のテキストから出題している場合がままあります。2008年では,桜美林,国士舘,関東学院,中部大学などに見られます。
別にいけないこと,非難されるようなことではありません。上で述べた入試問題に使える条件の厳しさを考えれば,ノン・ネイティブの読解力養成用に書かれた(つまり,もともとその条件を考慮した上で書かれた)英文を集めたテキストは,ある意味でうってつけなわけですが,「中堅大学」より上のレベルの大学ではあまり使われない傾向があります(2008年では広島大学くらいか?)。
- Timed Readings (Glencoe/McGraw-Hill)
- The Speed Reading Book (BBC)
- Weaving it Together (Heinle & Heinle)
- Reading Advantage (Heinle)
- Reading Power (Longman)
などのシリーズが使われています。シリーズもの以外の単発ものや,大学教養の語学の授業で使われる南雲堂,成美堂などのテキストも見当たります。
次回は,どんな作家が使われているかを見てみます。