ここ数年,大学入試で使われる英文に出典が明記されているケースが増えています。
すべての大学・学部のすべての問題を集められるわけではないし,どんな問題を長文問題とみなすかとか,そもそもデータを集計しにくいのですが,大ざっぱなデータだけでも趨勢はわかります。たとえば2008年の全国主要大学の英語入試のうち,長文問題は1529題で,そのうち408題(≒26.2%)に何らかの形で出典が示されています。[1]
5年前の2003年では,英文総数約1350題に対し,出典の明示は約80題(≒6%)。2005年から2008年までのデータは以下のようになります。[2]
年度 | 英文数 | 出典明示数 | 割合 |
2005 | 1345 | 57 | 4.2% |
2006 | 1318 | 178 | 13.5% |
2007 | 1508 | 244 | 16.2% |
2008 | 1529 | 408 | 26.7% |
比率から言えば,まだまだ明示している問題は少ないと言っていいでしょうが,目に見えて増えているのは間違いのないところです。おそらくこの傾向はしばらく続くと思われます。
英文総数のうち75%が私立ですが,出典明示数は私立―国公立で大差ありません。ということは国公立の明示比率が高いことになります。といっても,センターや東大のように過去一度も出典を明示したことがないところもあれば,上智のようにほぼすべての長文に出典が記載されている大学もあります。
表示の仕方もさまざまです。タイトルや筆者はもちろんページまで記載している大学もあれば,タイトルのみ,筆者のみ(立命館のように)というところもあります。タイトルが問題のヒントになってしまう場合や,タイトルを答えさせる問題もあるわけですから,こまかく記載すればよいというものでもありません。
こうした傾向は,むろん近年の著作権・知的財産権重視の風潮を背景にしたものでしょう。入試問題にも著作権保護がなされるべきだという考えは,現代文・現代国語では当たり前になっています。著作権料を払っていない予備校が訴訟の対象となる事例もあります。問題集や予備校の場合は,いわゆる「二次利用」なので,大学が出題する問題文の著作権とは扱いがやや異なるようですし,まして英文の場合,どのような扱いがされているのかよくわかりません。二次利用である「入試問題正解」(通称『電話帳』)などでは,著作権料の支払いが行われる場合もあるらしいですし,著作権に対する配慮から問題文を掲載しなかったり,というケースもあります。特に国内に版権がある「英字新聞」からの出題に多く見られます。
このシリーズで採り上げたいのは,著作権の問題ではなく,入試はどこから採られているのかということです。以下で,より具体的に考えてみたいと思います。
- データはEXAM 2000~2008(JC教育研究所)にもとづく分析。以下同じ。最新の2009年のデータは未集計。 [▲ 戻る]
- 集計方法は,各年度の<長文読解力>問題の問題文中に「出典」「Adapted from」が含まれているか,で調査した。したがって完全ではない。 [▲ 戻る]