文法はどうしても落とせない部分はしっかりやって,そのあとは読み・書き・話し・聞くという訓練を大量にやる,そしてその力がけっこうついてきたなと自覚できるあたりでもういちど文法をまとめてやってみる。その繰り返しが語学力の向上に不可欠であるように思います。文法は理解できるようになればそれなりに魅力のある分野なので,深入りしたくなる気持ちもわかりますが,他の分野の力がつかないとあまり意味はないし,第一,文法の重要性自体も身に染みてわかってはこないでしょう。
さて,ここで問題になるのは「どうしても落とせない」文法というのは何か,ということ。当面の目的が大学入試であれば,最低限レベルといえどもかなり突っ込んでおかなければならないし,そうでなければ読書が目的なのか,日常会話が目的なのかでも変わってくる。さらに,目的以上にだいじなのは,どういう観点で文法を見るのかということで,これによってピックアウトされるものがずいぶん違ってくるだろう。
『こんなふうにやればどんどん読める 直読英語の技術』(加藤恭子 著 阪急コミュニケーションズ 2005)という本があって,英語をどんどん読みながら力をつけることを勧める一般の初学者向けにやさしく書かれた好著であると思う。加藤先生はこの中でやはり最低限の文法の必要性を説かれている。直読即解,速読,多読などを勧める本は多いが,一般受けの悪い,文法の重要性を指摘するものは少ない。最低限の文法を押さえた上で多読しよう,そういう方針のようで,この手の本にありがちなハッタリはない。その最低限の文法のリストを挙げてみたい。
読むための《厳選ミニマム英文法》
捨てられない文法事項
- 品詞を覚える
- 名詞の区別 普通名詞と固有名詞,(+物質名詞と抽象名詞)
- 代名詞の区別 人称・所有・指示・再帰・否定・疑問・関係
- 動詞の区別 活用,時制,自動詞vs他動詞,能動態vs受動態,仮定法,命令形,不定詞,動名詞,時制の一致,直接話法・間接話法
- 助動詞
- 形容詞(比較級も含む)
- 副詞
- 冠詞
- 前置詞
- 接続詞
厳選リストからあえてはずした文法項目
- 文型
- 時制(のうちの 未来完了,現在完了進行,過去完了進行,未来完了進行)
- 節と句 (名詞節,形容詞節,副詞節,名詞句,形容詞句,副詞句)
- 分詞構文(完了形の分詞構文,独立分詞構文)
- 修辞疑問文,不完全自動詞
- 主格補語,目的格補語,直接疑問文,間接疑問文,関係副詞
加藤恭子 著 『こんなふうにやればどんどん読める 直読英語の技術』(阪急コミュニケーションズ 2005)による
文法用語を覚えるかどうかの話ならば,もっと大胆に削ることもできるだろう。逆に概念的な理解の必要性の観点ならば,僕としては「文型」「節と句」ははずせない。むしろ「時制の一致」「話法」を削除したい。
僕のイメージする最低限文法は,
- 単語にはその機能別に品詞が存在すること
- 単語が集まって句・節を作るが,その句・節には名詞,形容詞,副詞(,+動詞句)という機能しか存在しないこと
- その句・節が集まって文を作るが,そのパターンは5つ(または6つ,7つ)しかないこと
という文法の全体像を理解してもらうことであり,それさえわかってしまえば個々の単語,句,節がどれに当たるかを考えていくだけで英文のしくみは理解できる,ということだ。むろんこれは万能ではないのだが,「だいたいこんなふうに英語はできている」ということを理解できればずいぶんと展望が開けると思う。