英和辞典を比較する (3)

「ジーニアス」「ルミナス」「ウィズダム」「ロングマン」,4つの英和辞典を比較するシリーズ。

今回は,文法関連の記述を比較してみます。「ルミナス」にはたとえば「仮定法過去」とか「原形不定詞」とかを扱う文法専門の囲み記事が本文中に多数あります(第1版で巻末付録だったもの)。それ以外の3冊にはこのようなものはありません。ワンランク下の辞書についている場合があります。

そこで,個々の語の中にある文法解説を取り上げてみましょう。どれを取り上げるか,ちょっと迷いますが,could にしてみました。

could はもちろん can の過去形ですが,「できた」とイコールではないことはよく知られています。たとえば,「昨日横浜に行って,おじに会うことができた」という内容を述べたいとき,*I could meet my uncle in Yokohama yesterday. とは言えません。could は「実際に~できた」の意味ではなく,「~する能力があった」の意味ですから,「おじに会う能力があった」ということになってしまうわけです。さらに,この could が否定文になった場合はどうか,知覚動詞が後ろに来る場合はどうかなどが注意すべき点なのですが,これがどのように記述されいてるか見てみましょう。なお,下線部は筆者によるものです。

 

ジーニアス

could [語法] (1)[couldとwas able to] 「(・・・する能力があり,それゆえ実際に)ある1回限りの行為をした,できた」場合はcould は不可: I was able to [× could] pass my driving test. 車の運転免許試験に通ることができた《◆ I could pass … という文単独では「私なら[その気になれば]運転免許試験に通ることができるのに」などの意味になるのがふつう; この意味の場合 could は仮定法》。 so … that … のthat 節内でも同様に不可: She was able to [× could]  swim across the river then. その時彼女は川を泳いで渡ることができた。 was able to 以外に, managed to do, succeeded in doing も用いることができる。しかし「・・・できた」は英語では I passed my driving test. のように単に動詞の過去時制であらわすことが多い

(2) [couldn’t と was not able to] 「できなかった」では両者は交換可能: She couldn’t [was not able to] swim across the river. しかし完全に同義ではなく,was not able to swim では実際に泳いでみたが川の流れが急などの理由で渡れなかったことを, couldn’t ではこの意に加えて,もともと泳ぐ能力がなくそれゆえ泳いで渡れなかったことなどの意を含む。

囲み外

[ S could + 感覚や理解などを表す状態動詞(hear, see, feel, smell, taste; understand, guess など)] ・・・が聞こえて[見えて]いた 《◆(1) 過去進行形の代用。 (2) 通例 could の代わりに was [were] able to は用いられない》 I could hear the door slamming. ドアがバタンバタンと音を立てるのが聞こえていた《◆ある一定期間聞こえていたことを含意; × I was hearing … の代用; cf. I heard [× could hear] a door slam shut. ドアがパタンと閉まるのが聞こえた》 / I could see the divers’ bubbles coming to the surface. 潜水夫の出すあぶくが水面に上がってくるのが見えていた / We could understand everything he said. 我々は彼の言ったことはすべて分かっていた。

全体的に,説明もポイントを押さえたわかりやすい説明になっています。

1つめの下線部は,意外に重要な指摘かもしれません。これは日本語の「できる(た)」と英語 can (could) の表現頻度の差異の問題がからんでいます。話は少しズレますが,native は Can you speak English? よりも Do you speak English? を用いることが多いと言われます。むろん相手に失礼になるかどうかの問題もかかわりますが,ことさら can を使えば「能力の有無」に重点を置いてしまうことになるからでしょう。この could でも,同様のことが言えます。上の例文は pass my driving test というそれ自体能力に関連した表現なのであまり適切な例とは言いにくいかもしれませんが,日本語に訳すときに,英文に can, be able to が使われていなくても「できる」と訳した方がいい場合はよくあります。この指摘はほかの辞書にはありません。

第2の下線部は,「ルミナス」の(4) 「過去のある時点のことに言及する」や「ルミナス」can の語法3 「『知覚している状態』を表す」,「ウィズダム」の「過去の特定時における(継続的)行為を表す」にあたっています。「過去進行形の代用」という言い方は多少言い過ぎの感もありますが,とらえやすさという面では他の辞書より(おおざっぱな分)すぐれているかもしれません。

 

ルミナス

[語法] (1) 用法について詳しくは→can

(2) 肯定文では過去の時を指していることが文脈によって示されない場合には could はむしろ B1 の仮定法過去の意味になるのが普通で,直接法の意味では代わりに was [were] able to とか managed to とか succeeded in …ing を用いるのが普通: He was able to solve [managed to solve, succeeded in solving] all the problems in an hour. 彼は1時間で問題を全部解くことができた。

(3) could は肯定文では過去のある時期に「・・・の能力があった」というときには用いるが,たまたまそのとき(1回)だけ「・・・できた」という場合には用いない。従って John was able to win the game. (ジョンはその試合に勝つことができた)とは言えるが, John ~ win the game.とは言えない。

(4) 感覚・知覚動詞と共に用いた場合は過去のある時点のことに言及する《→can 語法3》 I ~ see a few stars in the sky. 空に星がいくつか見えた。

can 語法3 普通進行形にしない see, hear, feel, smell, taste, understand, believe などの感覚・知覚動詞と共に用いた場合は意味が弱く,全体としての意味は動詞だけの時とほぼ同じで「知覚している状態」をあらわす: I (can) see two birds over there. 鳥が2羽向こうに見え(てい)る / C~ you hear someone coming this way? だれかがこっちへ来るのが聞こえるかい / I ~ feel something crawling up my leg. 何かが脚をはい上がっているのが感じられる。次の文は「瞬間的な知覚」を表している: I see a bird! あっ,鳥だ。

「ルミナス」は「ジーニアス」とそれほど変わりません。(2)と(3)に分けている理由がよくわからず,それゆえ「ジーニアス」より整理されていない印象を与えますが,基本的には同じでしょう。

なお,このポイントは「英英辞典」ではあまり突っ込んだ解説がありません。(まあ,これ以外でも語法説明は英和辞典の方が詳しいわけですが。) LDOCE や COBUILD にはまったくなく,OALD は”generally に able”な場合がcould,”on a particular occasion” では,was able to や managed to とさらっと書かれています。これはこれでわかりやすいのですが。

 

ウィズダム

could 「できた」

(1) could は人が過去にあることをする能力や機会を持っていて,しようと思えばいつでもできたことを表す。過去のある特定時に,努力の結果実際に何かができたという場合には,could を使わず was able to, managed to などを使う。→ The injured man was able [managed] to walk to a phone box. その人はけがをしていたが電話ボックスまで歩けた[どうにか歩けた]。

(2) not および hardly, barely, only, just の準否定を伴う場合と,before (・・・しないうちに)の節内では,過去の特定の行為に使える→ I could hardly breathe. ほとんど息ができなかった / Before I could finish, she had broken in. 私が言い終わらないうちに,彼女が割り込んできた。

(3) see, hear, feel などの知覚動詞や understand, remember などの認識動詞では肯定文でも用いられ,過去の特定時における(継続的)行為を表す → I could hear someone in the garden last night. 昨夜庭にだれかいる物音がしていた。

(4) could tell (わかった), I’m so glad you could come. (よくお越しくださいました)などの決まり文句では could が肯定文でよく使われる → I could tell he was drunk. 彼が酔っているのがわかった。

(5) Could you … ? の疑問文で特定の行為の達成を問うことはできるが,「依頼」の意味にとられやすいので, Were you able to …? を用いた方がいい

もちろん基本的には「ウィズダム」も「ジーニアス」「ルミナス」と同じですが,下線を引いた個所は他の辞書にはない部分です。どれも言われてみればあたりまえ,と思いますが,初学者にはこういう指摘はありがたいのかもしれません。

 

ロングマン

could 1 《can の過去形》 (能力的に)・・・することができた,(許可を示して)・・できた,・・・することが許されていた

「ロングマン」は特に囲み記事として注意を促す部分はなく,語義説明の中に「(能力的に)」と書かれているだけです。「ジーニアス革命」以来,各社の学習英和が語法重視に流れている中では異質に見えますが,これが初版ゆえの準備不足に由来するのか,「英和」の本来(?)の役割に立ち返ろうとする確信犯的原理主義(!)なのかは不明です。

逆にいえば,「語法重視」がスタンダードとなって,「ロングマン」以外が少なくともこの項目のような語法・文法説明に関しては似てきてしまったということは,英和辞典のある種の飽和状態が近づいている証左なのかもしれません。

 

英和辞典比較シリーズ   総評

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