= 接頭辞 un =
ジョージ・オーウェル(George Orwell) の小説 Nineteen Eighty-Four (1984) は,ユートピア(Utopia)の反対に,すべてが悪夢のような社会であるディストピア(dystopia)を描いた作品です。Big Brother と呼ばれる,いるのかいないのかよくわからない独裁者に支配され,国民の行動はすべてモニターされ,もちろん言論・思想は完全に統制されている社会なのですが,言語(舞台はイギリスなので英語)も人工的に「改良」されていて,この新言語はEnglishではなく, Newspeak と呼ばれています。ことばからすべての曖昧性を廃し,むだをなくし,そもそもこの言語を使って考えると Big Brother にさからうような思考ができないような言語をめざしています。ニュアンスなどというものが入り込む余地のない言語で,語彙も制限・「改良」されていて,たとえば great という単語が廃止され代わりに plusgood (good+ ってこと), excellent は doubleplusgood (good++ ってこと)になり,逆に bad は ungood ということばになります。
さて,きょうの話はこの un という接頭辞です。
接頭辞とは,もとの単語(語基とか語根とよばれます)の前にくっつけて新しい単語(複合語)を作るための要素です。日本語でも「可能」(語基)の前に「不」(接頭辞)をつけて,「不可能」という単語が作れます。ちなみに,おしりにくっつくのは接尾辞と呼ばれます。「可能性」の「性」のようなやつ。
un- という接頭辞は「打ち消し」を表す,というのはけっこう有名でしょう。日本語の「不」(「不可能」),「非」(「非常識」),「無」(「無意識」)などと似ています。ただし,un- には異なる二つの un- があるので要注意です。
- un + 形容詞・分詞 「~でない」という否定の意味をあらわす [出来上がった単語も形容詞]
例) unable, unkind, uncertain, unprecedented(前例のない) (ungood ということばはオーウェルの造語) - un + 動詞 もとの動詞と逆方向の動作をあらわす。「~したものを~しない状態に戻す」 [出来上がった単語も動詞]
un1 はわかりやすいと思います。
ただし,否定したければどんな形容詞でも un をつければいいというわけではありません。in(im,il,ir)を使うもの(incapable, impossible, illegal, irregular)やdisを使うもの(dishonest)もあります。もとの形容詞が -ful で終わっていれば,un- ではなく接尾辞 -less を使います。でも in や dis はラテン語系・フランス語系の単語につくので,使い道はunよりも狭く,新しく生まれる単語を否定する時はunが使われることが多くなります。
un2 について解説しておきましょう。
たとえば,fold という動詞は「折りたたむ」という意味ですが,これに un- をつけて unfold にすると「折りたたまない」という意味にな...らなくて,「(折りたたんであるものを)広げる・開く」という意味になります。learn 「学ぶ」に対して,unlearn は「(学んだことを意図的に)忘れる」という意味です(forget とは違って,「わざとがんばって忘れる」こと)。
つまり, V + O 「OをVする」に対して un2 つきV + O は「OをVされる前の状態に戻す」ということです。
- fold 開いた状態のものを折りたたんだ状態にする 「折りたたむ」
- unfold 折りたたんだ状態のものを開いた状態にする 「広げる」
- wrap ラッピングしてない状態をラッピングした状態にする 「包む」
- unwrap ラッピングした状態のものを,ラッピングしていない状態にする 「包みをひらく,ほどく」
- do + O O(たとえば何かの作業)をしてない状態から,された状態にする 「する」
- undo + O Oがなされた状態のものを,なされてない状態にする 「元に戻す」