ここ数日頭痛がやまない。ここ数日じゃないか。年がら年中なのだから。
若い頃はまともな病気などしなかった。風邪をひいて熱を出しても,あったかくして一晩汗だくで寝れば,翌朝は病み上がりの爽快さとともに目覚めることができた。遠い昔の話だ。
頭痛持ちになったのは二十代後半からだろうか。原因らしい原因があるわけではない。逆にいえば,原因らしいものはいくらでもある。喫煙,寝不足,歯痛,副鼻腔炎,便秘(?),頭痛薬依存...頭痛は,連日続くこともあれば,二,三週の間をおくこともある。それが年を経るにつれ間隔が狭まってくる。頭痛の発作,といっても私の場合はさほどの激痛ではなく,鈍い痛みがだらだら続くだけなのだが。
頭痛には,外因性のものを除けば偏頭痛と緊張性頭痛があることはよく知られている。ほんとうのメカニズムはよく分かっていないらしいが,この二種類も我々しろうとは取り違えやすいという。テレビの特集や家庭用医学書を見てもよくわからない。たぶん,あくまでたぶんだが,私の場合は偏頭痛ではないようだ。その違いがわかったとて,頭痛薬を飲む以外の対処法があるわけではない。以前何かのついでに医者に尋ねたこともあるが,これといった治療らしきものは受けなかった。「心配ならCTを撮ってもいいけど,大丈夫だと思うよ。」 こうして,今日も頭痛との騙し合いをしながら一日が過ぎていく。
New York Times に,神経科医のOliver Sacks (オリバー・サックス)の記事が出ていた。
Migraine: Patterns By Oliver Sacks
3,4歳の頃の不思議な体験から語り始めている。遊んでいると突然まばゆい光が見え,やがてその光が,周囲がギザギザの巨大な半円形となって空へと伸びる。やがて今度は左側の視界が完全な空白になり,何も見えなくなる。
それが migraine (偏頭痛)であることを教えてくれたのは,医者でもある彼の母親だった。ここから彼の偏頭痛歴が始まるのだが,こうした錯視は偏頭痛持ち( migraineur と言うんですね,初めて知った )には珍しくはないらしい。特に,絨毯の模様 (pattern) のような,小さな似たような形が連なった幾何学的模様が,視野一面に広がることが多く,中には動物だの,顔だの,頭蓋骨(!) の模様が見える場合もある。むろんこの原因が究明されているわけではないが, Sacks は「脳の一次視覚野の微小なしくみを反映していて」「無数の神経細胞の活動が自己組織化を行い,複雑で変転極まりない文様を生み出す」としている。
さらにすすんで,アルハンブラ宮殿のアラベスク模様,中世キリスト教世界の模様,アボリジニーのアート,ネイティヴアメリカンの文様,さらには60年代のサイケデリックアートに見られるパターンはこうした脳の構造を反映した,人類共通の経験なのでは?というところまで突き進んでいる。ちょっとユングめいている。
Whether or not this is the case, there is an increasing feeling among neuroscientists that self-organizing activity in vast populations of visual neurons is a prerequisite of visual perception — that this is how seeing begins. Spontaneous self-organization is not restricted to living systems — one may see it equally in the formation of snow crystals, in the roilings and eddies of turbulent water, in certain oscillating chemical reactions.
かくして,果ては自然界全体に見られるパターンへ話は進む。
私はこんな経験はしたことがないが,していたら確実に何か,「神のお告げ」的神秘体験だと思っちゃうでしょうね。