ここでは,具体的に英文を読みながら,どのような点に留意して英和辞典を使うべきかを考えてみたいと思います。次の文を読んでみてください。必ず実際に英和辞典(ペーパー辞書でも電子辞書でもかまいません)を引きながら読んでみてください。2006年の京都府立大の下線部和訳問題で,大学入試の和訳問題としては難問の部類に入ります。この前の部分を省略してありますが,全体としては「何十年ぶりかの同窓会(reunion)で,人は何を求め,何を感じるか」というような話です。下線部(1)に出てくるtheseは,同窓会に集まったかつての友人たちです。
- どのタイミングで辞書を引くか
- 引く前に何を考えるべきか
- どのように見出し語を探すか
- 辞書のどこを読むべきか
- どのように熟語を探すか
を意識して,辞書を使ってください。
(1)What really counts is that these are all friends united in a common cause of memory and everyone should avoid saying things like “Good God! Look at you! What happened?”
Still, they’re not the same people we expected to see while thinking about them in the car on the way to the reunion. (2)Aren’t we all looking for the old faces and the old bodies, and to hear a lot of the old jokes? We expect to pick right up where we left off. Of course, no one remembers what it was really like.
どのタイミングで辞書を引くか?
「わからない単語に出会ったら,すぐに辞書を引く」というのは賢明ではありません。
1つのパラグラフを辞書を引かずに読み通してから不明な単語を辞書で調べるというのが理想でしょう。少なくとも,不明な単語で立ち止まらず,その文全体をピリオドまでは読んでからにしてください。
知らない単語の意味を文脈から推測する,という能力は「読む」「聞く」という行為において絶対に必要な能力で,これは経験を積むことでしか磨くことができません。「この単語知らないぞ,よし,速攻で辞書で調べよう」という習慣は,まじめな学習者が陥りやすい学習態度なのですが,将来的には逆にマイナスになります。意味を推測してから引く,という習慣をつけましょう。
長いパラグラフであれば,知らない単語にマークを付けながら,そして意味を推測しながら読んでいくのですが,マークだらけになってしまったら,推測も何もできっこありません。前後関係から推測するのに,前後もわからなければ手がかりがなくなり,ただのあてずっぽうになるからです。この場合はその文章が自分のレベルに合っていないのかもしれません。
上の文章ではまず下線部(1)を通して読んで,知らない単語にマークを付けます。知らない単語が見当たらない?大変結構です。unite 「結合・統一する」 ,common 「共通の」 ,avoid 「避ける」あたりは知っていてほしい単語です。これらは辞書を引かなくても知っているものとします。
ただし,friends united は「結合された友達」では意味がよくわかりません。「その 1」で書いたとうり,意味を決めるのは文脈ですから,この「同窓会で友人が再会する」という文脈の中で考えれば,このfriends united は具体的には「再開した友人たち」の意味になりそうなことを推測できると思います。「結合」「団結」という大げさな言葉を使っているのは,cause という語に関係があります。
残る単語でだいじなものは,count と cause です。これらを辞書で確認してみましょう。
引く前に何を考えるべきか?
これは,1つはもう触れました。知らない単語でもあらかじめ「意味を推測しておく」ことです。
もう一つは,知らない単語,知っているはずなのによくわからない単語を辞書で引く前にその語の文中での働きを考えることです。言い換えれば,品詞は何かを考えるということです。英語の品詞は,単語の並び方で推定することが可能です。
たとえば,下線部(1)では,What really counts is … とあれば,count は関係代名詞whatの節の中にあり,節にはSとVがあるはずなので,What がS, counts はVであるはずです。つまりcauseは動詞であり,しかも後ろに目的語がないので自動詞ということになります。また,cause は,名詞も動詞も存在しますが,ここでは前に a が付いているのでめいしのはずです。したがって,count の自動詞の欄,cause の名詞の欄を探さなければなりません。
品詞を知るためには,こうした文法の基礎的な力が必要です。辞書を効率的に引くためには文法力が前提になるわけです。もちろん逆に,辞書をうまく引こうとすることは,文法力をつけていくにもなります。
どのように見出し語を探すか?
これは,解説は必要ないかもしれません。アルファベット順に配列されているわけですから,その順で探せばいいし,電子辞書ならキーを打つだけです。
注意しておきたいことは,ひとつだけです。
時々当たり前の単語の当たり前の意味なのに,「その意味,辞書に出てないんですけど…」と生徒に言われることがあります。不審に思って,生徒が引いている辞書をのぞいてみると,「あっ,なるほどね」と思います。
辞書に単語を載せる場合,2つ3つに分かれている場合があります。たとえば,case という単語は case1 と case2 に分けられていて,case1 は「容器,ケース」の意味,case2 は「場合,真相」の意味というぐあいです。これは,それぞれの case の語源が異なっているからで,こういうものは辞書をパッと探しただけでも,duck, live, pen, race, sole, toast などたくさん見当たります。先の生徒は,2を見るべきだったのに,1を見ていたというわけです。1, 2 という記号がつく場合があることも頭に入れておきましょう。
さらに,探している見出し語が辞書に存在しない場合があります。その場合は,
- 独立した見出し語にはなっていなくても,その語の核になる部分の見出し語の中に出ている場合がある。たとえば, ginger ale 「ジンジャーエール」は,G4では,見出し語にはなっていないが,ginger の項目の下にある。(電子辞書では独立見出しになっているかも)
- その語の核になる部分の見出し語の例文の中に見つかることもある。
- 接頭辞や接尾辞を除いた語幹で探す。たとえばun- のついた語は,見出し語になっていなくても,語幹の意味の打ち消しであることがわかるはず。
- もちろん辞書はすべての単語をのせいてるわけではないので,その辞書にもともと存在しない場合もある。そういう場合はほかの辞書に当たるか,ネット検索という手もある。
辞書のどこを読むべきか?
さて,やっと目指す見出し語が見つかりました。次に,意味を探すわけですが,小さい字で長々と書いてあると探すのがイヤになるかもしれません。だから,英語の部分はすっ飛ばして,日本語の意味のところだけざっと目で追ってそれらしきものを探す… こういう人が非常に多いのですが,これだと当たればラッキー,ですがはずれも多いでしょうね。前項で述べたように,あらかじめ品詞を推定しておけば探しやすくなります。上で未解決だった,count, cause を実地に検証してみましょう。ここで使う辞書は 大修館書店「ジーニアス英和辞典」第4版(G4) です。
count1 【原義:計算する】
—— [動]
— (他) (1) [SVO] <人が><人・物など>を(1つ1つ)数える,合計する(+up, over); 計算[算出]する
(2) ((正式))[SVO] <人が><人・物・事>を勘定に入れる,数に入れる; …を考慮する(consider); …を[…の]1つとみなす[in, among] 《進行形は不可》
(3) ((正式)) [SVO (as [for] C) <人が>O<人・物・事>を…と考える,思う 《Cは名詞・形容詞; 進行形は不可》
— (自) (1) [SV(M)] <人が>(1つ1つ)[…から/…まで] 数える;(数字で)計算する; (合計で…)数になる[入る]( +up) [from / (up) to]
(2) [SV as C] …とみなされる; [SV among O] …の1つとみなされる《進行形は不可》
(3) [人にとって]価値がある,重要である (matter) [with]; […に]影響力を持つ [toward] 《(1) for something [much] などで重要さの程度を表す. (2) 進行形は不可 》
(4) (公に)認められる
これが「ジーニアス」のcountの項です(例文は除いてあります)。まず,先ほどcount は自動詞と推定しました。したがって,他動詞の項はすっ飛ばして,自動詞を見ると4つの意味が出ています。ここでも,すぐに意味に飛びつくのではなく,文型(形)で絞り込みましょう。下線部は What really counts でしたので,後ろに修飾語はありません。これで as を伴う(2)は消えます。残った(1)と(3) ((4)はまれ)で意味をあてはめて,「本当に数えるもの」「本当に重要であること」の2つで,最終的には自動詞(3)が正解,になるはずです。ここで注意したいのは例文に必ず目を通すということです。電子辞書の場合は「用例キー」を押す習慣をつけてください。(3)には次のような例文が載っています。
- The voices of two little people do not ~ for much in this world.
- Academic qualifications ~ for nothing in this job.
- Seconds ~. 1秒を争う
- You don’t ~. 君は数に入っていない
- What ~s is your effort. 大切なのは努力だ
- It’s the thought that ~s.
なんと,5ばんめに下線部と同じ What counts … という例文があります。これを見つけてはじめて「間違いなくこれだ」となります。この表現がよく使われるらしい表現であることも分かります。本文と似たような例文を探すことは,辞書を使う上でいちばん心がけたいことです。
今度は残った cause です。ふつうは,動詞「引き起こす,原因になる」,名詞「原因」で覚えていてほしいのですが,ここはそれでは意味が通りません。
cause 【原義: 原因,理由】
——[名] ( (複) caus・es ) (1)[C] [通例悪い事の]原因,種,もと [of]; 原因となる人[物]
(2)[U] […の/…する/…という] 理由,わけ,根拠,動機(reason) [for/ to do/ that 節]
(3)[C] (個人や社会の掲げる) 主義,目標,理想,大義,(…)運動; 福祉
(4)[C] [[法]] 訴訟理由,訴訟(事件)
これがG4の cause の項。問題文の下線部には a が付いていたので可算名詞,つまり(2) は消えます。(4) は法律用語なので関係なし。そして,「原因」でないとしたら,(3) しかありません。そこでまた例文を確認してください。
- in the ~ of justice [world peace] 正義のために [世界平和をめざして]
- champion a ~ 主義[目標]を強く支持する
- She is working for the refugees’ ~. 彼女は難民の福祉のために働いている
下線部は in a common cause of ~ の形ですから,1ばんめの例文が似ています。これで確定としていいでしょう。ここでも,辞書の例文チェックは欠かせません。
下線部(1)の訳例
本当に大切なことは,ここにいる人たちはみな思い出という名のもとに一致団結した友人たちだということであり,「おいおい,鏡を見てみろよ,どうしちゃったんだい?」などということを言うのは,誰もが避けるべきなのだ。
どのように熟語を探すか?
下線部(2) へ移りましょう。前半は特に問題ないでしょう。後半部は,pick up, leave off という2つの熟語が使われていますが,これが熟語であることにすぐに気づきましたか?
動詞+副詞型の熟語は put off, get up, put on など数多くありますから,pick upやleave off が熟語じゃないかな?というのは気づきやすい方です。一般に,単語として辞書を引いて解決できないものは片っぱしから熟語の疑いをかける習慣をつけてみるといいと思います。もちろん,熟語ではないものもいっぱい出てくるでしょうが,何ヶ月かたつと(回数でいえば,100回か200回試していれば)多少わかりにくい熟語でも,「これはたぶん熟語だな」とかのカンのようなものが身につきます。こういうカン(=経験知)がついてくることが,「辞書を使いこなす」ということです。
さて,pick up という熟語は,pick の項に出ているでしょうか?それとも up でしょうか?もちろん pick ですよね。 pick up のコア(核)になるのはpick だからです。leave off ではleave。では,take care of は?これは,care です。beat around the bush は? (ふつう bush) white elephant は?(ふつうは white かな) どれがコアの語かを見つけるカンもしばらくかかるでしょうが,引いているうちにかんたんに身につきます。もっとも電子辞書の熟語検索機能を使えばイッパツですけれど。
pick up には意味がたくさんあるのですが,ここも例文にあたってみましょう。すると,
((略式)) (話などを中断した後で)また始める,続ける という意味のところに,
Let me pick up where I left off. 中断したところから話を続けます
という問題文とそっくりの例文が載っています。これまた,例文調べの大切さを示してくれます。
right は「まさしく」という副詞で,後ろの副詞(句)を強調します。what S is like は「Sはどのようなものか」。
下線部(2)の訳例
私たちはみな,昔の顔,昔の体つきを探し,昔と同じ笑い話をたくさん聞きたがっているのではなかろうか?中断したところから再開しようと思っているのである。むろん,それが本当はどんなものであったかなど誰も覚えてはいないのだが。
まとめ
- 辞書は,1パラグラフ(または数センテンス)まとめて読んでから引く
- 引く前に意味を推測する
- 引く単語の品詞を推定する
- 辞書の文型・語法・可算不可算などの文法情報を活用する
- 例文を読んで,似た形を探す
作成日 2008.02.20 Ver. 0.8