たくさん聞いていると,ある日突然聞き取れるようになる?

少なくとも,なんとなく聞いているだけではリスニング力(もちろん,英語力全体も)伸びない,というのはすでに結論が出ていることだと思います。英語教師や第二言語習得の研究者で,「聞くだけで英語ができるようになる」という宣伝文句でよく見かけることばを真に受けている人はまずいないでしょう。

ただ漫然と聞いていたのでは,何千時間英語に接していても上達はしません。 (杉田敏 「ビジネス英会話 はじめに」)

 

大量の英語に触れるといっても受け身の姿勢で,ただ聞き流しているだけではだめなのです。英語を身につけるために聴いている(「聞いている」のではないことに注意してください)のだという意識的な学習態度が肝心なのです。 (大津由紀雄 「英語学習 7つの誤解」)

 

第二言語習得において,インプットの量は多い方が効果的だと思われがちですが,単に大量のインプットが与えられたからといって,乳幼児が母語を習得するように第二言語が習得されるわけではないことがわかります。( … ) 「1日数分間聞くだけで乳幼児と同じように英語が習得できる」ようになるかどうかは疑わしいことがはっきりします。 (白畑知彦編著 若林茂則・須田孝司著「英語習得の『常識』『非常識』」)

 

齋藤孝: 英語をシャワーのように浴びれば英語が使えるようになるというのは,まさに幻想ですよ。(…)

斎藤兆史: まして英語シャワーといっても,せいぜい一日に1, 2時間,多くて数時間程度でしょう。生まれた時から,英語で話し,英語で考えるという具合に,母語である英語に四六時中触れながら成長する英語話者の人たちとはまるで状況が違います。 (斉藤孝,斉藤兆史 「日本語力と英語力」)

 

ところが一方で,一見したところ逆の意見もあります。いま名前を挙げた斎藤兆史氏は「これが正しい!英語学習法」という本の中で,視聴覚教材の4つの学習法の一つとして「聴き流し」学習法を紹介しています。

これは,読んで字のごとく,英語の音声をただ聴き流すだけの学習法で,これも音読と同じように,ひとつの習慣にしてください。机に向ってまとまった勉強ができないときなどに,ただ英語を流しておけばいいのです。( … ) 英語の音に耳を慣らすことが目的なので,内容はほとんど問題になりません。

しかし,これはあくまでも斎藤氏が挙げる4つの学習法の一つであって,これだけでリスニング力がつくとは言っていません。ほかの3つはもっと集中力を要するものです。筆者も言っているように,聴き流しは音声に慣れることだけが目的であって,これを続けていけば自然に英語力がつくという主張ではありません。

また,日本での語学教師の経験を持つアリスン・デバイン(Alison Devine)さんという方はBGN法(英語を background noise として流しておく学習法)というのを薦めています。

たとえば朝の目覚ましを,目覚まし時計から,ラジオの英語放送をタイマーセットする方法に切り替えたり,キッチンにもラジオを置いたりして,朝ごはんの準備や食事をしているときに英語の曲やニュースを聞けばいいのです。( … ) 毎日少しずつ,英語を耳に入れる習慣をつけましょう。/しかしここで大切なのはあくまで,「英語をただ流しっぱなしにしておくこと」です。background noise は学習とは違い,意識して「聴く」ことではないのです。間違っても,英会話のカセットやCDに集中してはいけません! (「日本でいちばん親切な英語学習法」)

この本は悪い本ではないのですが,このへんはあまり説得力を感じません。「赤ちゃんが母語を学ぶように外国語を学ぶ」というのが,この筆者やほかの「聴くだけで英語が身に付く」と主張する人たちが必ず持ち出す理屈ですが,「毎日少しずつ」でその効果を期待するのは無理です。筆者は日本のテレビを聞いているうちに理解できるようになった経験を語っていますが,日本のテレビを聞いているということは日本在住中のことでしょうから,それ以外にもたっぷり日本語に接していたはずで,「テレビを聞くだけで」ではないはずです。

初級から中級にかけての学習者は「聞くだけ」学習法は,音声に慣れること以外の効果はない,というのが結論です。たとえば一回読んだことのあるテキストを,そのテキストに付録としてついているCDなどを何度も「聞き流す」のは効果があると思いますが,これは「聞くだけ」学習法ではないですよね。

初中級者は,

  • まず音声だけを聞いて少しでも理解しようとし,
  • 次にテキスト(スクリプト)を見ながら音声を聞き,
  • 必要なら辞書などで語彙を確認し,
  • 一回理解した上で,もう一度音声だけで理解しようと試みる。

ということの繰り返ししか方法はないと思います。誰でもやっている当たり前の方法ですが。

私は,大量に聞けば英語力の向上が見込めるのは,むしろ上級者の場合ではないかと思っています。ある程度聞き取れるようになっていれば,聞くことは娯楽になりえますから,聞くことに苦痛は感じませんし,聞きながら不明の語彙を調べることも可能になります(この,聞きながら,知らない単語・熟語を調べることができる,というのが上級に近づいた証拠といえるかもしれません)。

 

 

 

作成日 2008. 02. 14     Ver. 0.8

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