語彙レベル★★★★|ストーリー★★★☆|知的興奮度★★☆☆|前提知識★★☆☆|対象レベル 英検準1級以上|ジャンル ホラー小説|1090p.|英語
スティーブン・キングはいうまでもなくホラー小説の大家なのだが,ホラー小説などいい歳したおとなが読むものではないと思われているらしい。大家・名人と呼ばれるキングでも,そのホラーの対象は,吸血鬼であったり,意志を持つ自動車だったり,超能力が絡んでいたりと,荒唐無稽のひと言で片付けられるものだ。でも,きっと誰もが気づくとおり,読んでいてそれほど白けてこない。その恐怖を経験する人々がそれに出会う以前に過ごしている日常の細部のリアリティー,人間関係や人間的感情のアクチュアリティーが丹念に積み上げられているからだ。感傷的と言えば言えなくもない。それは荒唐無稽なホラーに現実味を与えるための装置なのだが,時にはそれが逆転して,ホラーが人間関係を駆動するための装置にすぎなくなることもある。この It もそういう気味のある小説だろう。
場所は,メイン州デリー(Derry, Maine)。It はこの(架空の)町に取り憑き,26 ~ 27 年周期で目覚めては,町民,とくに子どもたちを次々に虐殺する。しかし,町民は誰も It の存在に気づかない。1958年,これに気づいた 7 人の子どもが立ち上がり,It に立ち向かう。そして長い苦闘の末にこれを倒したが,とどめを刺せなかったのでは,という思いが残る。そして,もし再び It が現れたなら,全員がもういちど集まって It と戦うという誓いを立てる。
彼らはその後,ひとりを除いてみんな町を離れ,そのひとりを除くとなぜか6人全員が社会的に成功し,なぜか全員に子どもができない。そして,27年後の1985年,町に残ったひとりから6人に電話が入る。ふたたび It が現れた...。誓いのしるしとしてた手のひらにつけた傷は,27年間で消えていたが,電話が入ったその時から,鮮やかによみがえる。そして7人のうちのひとりは,その電話の晩に浴室で血だらけになって息絶える...
7人の少年のグルーブは The Losers’ Club と名乗っている「負け犬」の集まりだ。吃音者,肥満児,虐待を受けている少女,喘息持ち,ユダヤ系,黒人,メガネ(アメリカだし)。この小説は結局この少年たちの青春ドラマであり,27年後からみれば,失われた少年時代を一時的にであれ取り戻せるのかという reunion drama (今作ったことばだけど)である。
僕は文学的評価は別にして,この種のストーリーには弱い。この小説には破綻やあらずもがなの部分がいろいろなくはないのだが,少年グループが何かの困難に立ち向かい...という教養小説的な結構と,数十年後の再会(回顧・喪失・回復)という筋立ては,僕の大好きなパターンの一つかもしれない。
But I’m going, because all I’ve ever gotten and all I have now is somehow due to what we did then, and you pay for what you get in this world. Maybe that’s why God made us kids first and built us close to the ground, because He knows you got to fall down a lot and bleed a lot before you learn that one simple lesson. You pay for what you get, you own what you pay for … and sooner or later whatever you own comes back home to you.
この箇所はそうでもないのだけれど,全体としては読みにくい英語の部類に入るかもしれません。なにせ,キングは語彙の多い小説家だし,スラング満載だし,辞書に出ていないような単語がごろごろ転がっている。50年代の子ども時代のできごとと80年代の大人の時代とを並行的に叙述していくので,当時の音楽やテレビ番組なども出てきて,知らないと面白くないところもある。そして何よりくそ長い。1000ページを越えている。(よく100万語多読とか言われていますが,この小説1冊で概算では36万語程度あります。私見ですが,100万語では英語力の飛躍には,圧倒的に足りないでしょうね。)
というわけで,ふつうの英語学習者には強くオススメはできない本ですが,でも好きだな,これ。