今回はちょっと専門的なものを取り上げようかと思いましたが,あまり難しくてもそもそも載っていない場合があるので,「そこそこむずかしい」くらいにしておきます。
というわけで今回は,S + V + O + O (第4文型の受動態)のはなし。
第4文型 (S+V+O+O) の受動態
まずは復習。すっごい基本からでごめんなさい。
第4文型とは,ふつう「S が O に O をVする」という意味になる文型です。O は,名詞のなかま(名詞,代名詞など)であり,前に前置詞はつきません(つくと違う文型になります)。たとえば,次の二つは意味は基本的に同じですが(微妙に重点の置き方がちがうけど),文型は異なっています。
- I gave him a book yesterday. (第4文型)
- I gave a book to him yesterday. (第3文型)
そして,第4文型の場合,ひとつめの「~に」に当たる部分の目的語を間接目的語( I.O. = indirect object),ふたつめの「~を」に当たる部分の目的語を直接目的語( D.O. = direct object)といいます。
今度は,受け身のはなし。
受け身「~される,~られる」の文は次のように作られます。
つまり,受動態にするということは
- 能動文の O が受動文の S に。 (O→ S)
- 能動文の V が受動文では be + p.p.(過去分詞)に。 (V→ be p.p.)
- 能動文の S は受動文では by ~ に。ただし,省略されることが多い。 (S→ by ~)
- それ以外はそのまま。
に変える,ということです。基本ルールはこれだけ。
さて,本題の第4文型の受け身。
第4文型は O が2つあるわけですから,O → S の変化も2とおりある,つまり,2種類の受け身の文が作れるということになります。
問題は,
- 上の [DO を S に]型では,to が用いられることが多い
- 下の [IO を S に]型は,いつも作れるわけではない
ということです。toを用いる場合,第4文型の受け身というよりも,最初で述べた第4文型と同じ意味の第3文型(I gave him the book)を受け身にしたもの(He was given the book.)と考えられます。このへんに注意しながら,各参考書を見ていきましょう。
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★ 総合英語Forest
まず,例によってできるだけ文法用語を使わずに説明しようとしていることに気づきます。「第4文型の動詞」ではなく,「目的語を2つ続ける動詞」としていますし,間接目的語は「相手」,直接目的語は「物や情報」と表現しています。これらの用語を知らずにこの部分を読む人には親切ですが,かえってわかりにくくなる場合もあります。専門用語の羅列には誰だって
上の問題点のうち,1のtoについては,toがつく方をふつうとし,toの後ろに人称代名詞が続く場合は省略できる,という書き方です。
問題点2の[IO を S に]型については,make, sing, find, cook などのbuy型動詞では「相手」を主語にした受動態の文を作ることはできない,としています。なぜなのかは書いてありませんが,書くとちょっとすごいことになってしまうからです。
でも,必要な情報はすべて載っています。文法用語を避けたことによって,わかりやすいと思うか,わかりにくいと思うかが意見の割れるところでしょう。
★ ロイヤル英文法―徹底例解
すさまじい量の記述です。文法用語も直接・間接目的語どころか,保留目的語,新情報―旧情報ということばまで導入しています。
[DO を S に]型と[IO を S に]型の両方できるもの,[DO を S に]型が多いもの,[IO を S に]型がふつうのもの,という3つのタイプに大きく分類して,そのそれぞれをこまかく再区分・説明しています。問題点2は詳しすぎるほど説明されています。
問題点1については,「一般に動詞と間接目的語の結びつきが強いので」と理由をあげたうえでtoなしでつかえるが,人称代名詞以外ではtoを入れるのがふつうだとしています。理由があげられていること以外は「Forest」と同じですが,その理由が次の[参考]で新情報―旧情報という概念を用いて,さらに詳しく述べられています。
ここを簡単にまとめておくと,
- 英語では,新しい情報は古い情報よりも後ろに来ることが多い
- 代名詞は前の名詞を指しているのだから旧情報である
- ふつう,a がつく名詞は新情報,the や this がつく名詞は旧情報
この新情報―旧情報については,Forestでも別の箇所で言及されいてます。
★ 表現のための実践ロイヤル英文法
全体として,「ロイヤル―徹底例解」を多少簡略にまとめた感じ。
受動態の作り方としては「ロイヤル―徹底例解」が3つに分類していたのに対し,この「表現ロイヤル」では,[IO を S に]型がふつうのものを省いて2分類になっています。toのあるなしの説明も「徹底例解」と同じ。
でも,いちばん違うのは最初の部分の記述でしょう。この本以外に多い,どういう形の文が正しい文なのかという視点,どういう動詞ではどういう形をとるのかという視点ではなく,その形はどういう文脈で用いられるか,その形の表現は何を言いたい時に使われるのかという視点です。前者には,[DO を S に]型と[IO を S に]型は意味が同じであるという前提がありますが,後者では2つの型は意味の重点が異なるという機能的・談話構造的な観点があります。これがいちばんの特徴ですね。
★ 英文法解説
短いですが,まあ「Forest」と同じくらいの分量の記述でしょう。いちおう大ざっぱに理解している人なら,これくらいの記述でも重要な点は押さえられます。でも,他の本と比べると,説明が少なくて寂しげなのはいなめない。「具体的なものの授受を表さない」give についての言及はこれだけかな。新情報―旧情報のはなしは別の箇所にあります。
★ 英文法総覧
基本事項はあまりことばでは説明せず,例文を多めにしているのが特徴といえば特徴ですね。
でも最大の特徴は[研究]の部分です。ここでは *The book was given John by Mary. という文の不適格性を,統語論と情報構造論の両方から論じています。でもはしょりすぎでは?
「能動文の直接目的語が受動文の主語になってはいるが,間接目的語を飛び越えて,受動文の主語となっているから」「一種の規則違反」というのは,生成文法における「格フィルター」の理論を踏まえているのだと思われますが,これだけの説明ではわかりにくいでしょう。といって,ゼロから生成文法を説明するわけにもいきませんが。
★ 英文法詳解
説明そのものは,情報構造も出てこない伝統文法的記述に終始していますが,結構ていねいですね。英米差として取り上げている部分は,単純に英米でスパッと分かれているわけではないと思われます。この本らしいのは4や5の日本の高校生がやってしまう一見つまらないミスについて指摘していることでしょう。
この項目は,学問的な研究が比較的進んでいる部分です。これらを生かそうとしているのが,2つの「ロイヤル」と「総覧」でしょう。今回は特に2つの「ロイヤル」に感心しました。
でも,大学受験にでないことは知りたくもないという向きには,どの参考書だって同じようなものですけどね。