高校生用の分厚い英文法参考書のはなし (9)

今回は「分詞構文」取り上げて,各参考書を比較してみます。前回・前々回の「同族目的語」,「劣等比較」に比べて,もっとも基本レベルに属する項目です。受験生なら誰でも「分詞構文」という名前くらいは知っているはずなので,目次から探せるはずです。

「分詞構文」という項目の中にもいろいろなポイントがあるので,そもそも「分詞構文」って何?という定義・前置き部分と「分詞構文の意味」に限定することにします。

 

「分詞構文」とは?

総合英語Forest

分詞の導く句が副詞的に用いられることがある。次の2つの文を比べてみよう。

【比べてみよう】

(1) Bob was waiting for Mary.  (ボブはメアリーを待っていた。)

(2) Bob was waiting for Mary reading a newspaper.  (ボブは新聞を読みながら,メアリーを待っていた)

(2) の文は (1) の文の後に reading a newspaper という分詞が導く句を加えた文である。この文では,「ボブがメアリーを待っていた」という状況について「新聞を読んでいた」という説明を加えている。このように,副詞的に文の情報を補足する分詞句を 「分詞構文」 と呼ぶ。

他と比べると,いちばん親切な情報です。この部分に求められているのは,分詞構文の定義ですが,「分詞構文って何?」という疑問をいだいてこのページにたどり着く生徒の立場から見れば,簡潔すぎる辞書的定義では「意味わかんないんですけど」という印象を与えてしまい,以下を読む気力をなくしてしまうかもしれません。

このイントロでは,「副詞的」「句」ということば以外は文法用語は使われておらず,「文の情報を補足する」という説明もすばらしいですね。他の分詞が,名詞を修飾して名詞句に組み込まれたり,補語として機能して文の不可欠な一部に組み込まれたりするのに対し,分詞構文は分詞構文は文の中心部の外にあって情報を補足する働きをするということが,いちばんのキモなのですから。

 

ロイヤル英文法―徹底例解

分詞が動詞と接続詞の働きを兼ねて,その分詞の導く句が副詞句として用いられるとき,これを分詞構文(Participial Construction) という。

短いですね。一度でも分詞構文を理解した(でもうろ覚えの)人にはこれでも大丈夫でしょう。

これはある意味,昔ながらの定義です。「動詞と接続詞の働きを兼ねて」というのは私たちもよくやる説明ですが,実例抜きでは初対面の人には意味不明でしょう。当然,筆者は「次で説明するからね」というつもりで書いているわけですが。

 

表現のための実践ロイヤル英文法

分詞を使って副詞節を句の形に圧縮したものを分詞構文という。「時」や「理由」を表すものが多いが,等位接続詞的に「継起」を表す場合も少なくない。

文を簡潔にする効果があるので,書き言葉では比較的よく用いられるが,統計から見ると,日常の会話で用いることは少ない。

「節」と「句」の違いを理解していることを前提にしています。「圧縮」ということばは僕もけっこう好きでよく使いますが,むずかしいのかな。「書き言葉」がなぜ太字なのでしょうか。

 

英文法解説

定義・前置き部分なし。さすが。

 

英文法総覧

分詞構文 (participial construction) と呼ばれ,主として文章体に用いられる。

【解説】 分詞構文というのは,分詞を主要素とする語群が文全体を修飾して副詞的に用いられている場合にいう。この構文では,述語動詞の時制と同時のことを表すには現在分詞を用い,それより以前に起こったことを表すには完了分詞を用いる。分詞構文が,時,原因・理由,付帯状況などのどの意味関係を表すかということは文脈によって決まってくることで,そのいずれであるか常に明確に識別できるとは限らない。

「分詞構文と呼ばれ」って,何が? まあ,その前の項目タイトルに「分詞の副詞的用法」とありますから,「分詞の副詞的用法は分詞構文と呼ばれ」ということなんでしょうけど。

この本はもともと教師用指導書が母体で,それを「中学上級の生徒から一般読者」対象に書き改めた(『はしがき』)ものですから,その原型をとどめているところなのでしょうか。

 

英文法詳解

分詞を含む文句が,時間・理由などを表す接続詞で導かれる文句(副詞節という)と同等の意味を表す場合がある。このような分詞を含む文が,分詞構文 (Participial Construction) である。

「文句」に異和感がありますが,無難なイントロです。

 

 

「分詞構文」の意味

日本の大学受験英文法の伝統では「時,理由,条件,譲歩,付帯状況(,継起)」という用語による分類がよく用いられています。でも,きちんと訳せることはだいじですが,分類自体にたいした意味はないでしょう。もともと多様な意味を持ちうるのが分詞構文の特徴なのだし,最近は入試問題でもほとんど見かけません。

ちなみに僕は,訳すときに「と,て,ながら,ので」(たまに「~けれど,ば」)というつなぎの助詞を使えばいいよ,くらいに話しています。

図は,クリックで拡大する(はず)。閉じるときは右下のCLOSE。

★ 総合英語Forest

Forest 分詞構文

Forest 分詞構文

時・理由...という用語での分類を捨てて,「『その時何をしているのか』を表す」という説明を理解させるねらいのようです。暗記しようというなら,時・理由・条件という用語の方が暗記しやすいでしょうが,暗記が必要なパートではないので,こういう説明は面白いと思います。僕は好きですね。レイアウトもきれいです。

when や because を使って書き換えさせる問題をテストに出す先生も探せばいるでしょうから,ちらっと書いとかなきゃ,というかんじで書かれています。

 

★ ロイヤル英文法―徹底例解

分類は伝統的。使われている例文もなんか昔から使われているような例文ばかりのような気がする(それはそれで無難ではある)。

分詞構文は書き言葉的とか,条件・譲歩は慣用的なもの以外はあまり使われない,という指摘はだいたい各参考書に載っています。でも,そうきっちりと口語・文語が分けられるわけではありません。だいぶ前のことですが,ネイティブと本の話をして,Having read that book, what do you think about ~? (あの本読んだんだったら,~はどう思うの?)というような内容のことをいわれたことがあります。特にフォーマルな会話ではありません。「会話で,分詞構文,特に完了分詞構文を使うんだ」とちょっと驚きでした。まあ慣用的と言えば言えるのですが,慣用的と言っても広いわけで,けっこう出会うものですよ。へたに使うのは危険ですが。

 

★ 表現のための実践ロイヤル英文法

表現のための実践ロイヤル英文法 分詞構文の意味

表現のための実践ロイヤル英文法 分詞構文の意味

ここでは条件・譲歩はふつう接続詞をつけて使う(つまり,接続詞なしではあまり使わない),と分類されています。付帯状況や継起は話し言葉でも使うという指摘はこの「表現ロイヤル」だけ。

例文は「ロイヤル―徹底例解」よりもやや「生きた」英語っぽいです。

 

★ 英文法解説

英文法解説(江川) 分詞構文

英文法解説(江川) 分詞構文

この本が,英語の教師や英語オタク(?)に評価が高いのは,選ばれている例文や『解説』欄の情報の質の高さですが,ここではそれほどでもないかな。例文と訳だけのそっけなさですが。

「分詞構文を時・理由などに分けたのは,分詞を含む文全体からそういう意味が出てくるのであって,分詞自身にそういう意味があるわけではない。」という指摘は大切です。

 

★ 英文法総覧

英文法総覧(安井) 分詞構文

英文法総覧(安井) 分詞構文

この本は,英語学(言語学)の最新の理論を学校文法の中に組み込もうとしている点で評価されているわけですが,その特徴はここではあまり出ていません。

なお,「時を表す場合」「原因・理由を表す場合」など各項目にクロスリファレンスがついていますが,これは第35章に,「時」の副詞句・副詞節などの意味別の表現が集められている一章があるということです。

 

★ 英文法詳解

英文法詳解(杉山) 分詞構文

英文法詳解(杉山) 分詞構文

この本は,「日本語に訳すとき(解釈するとき),何に注意をしたらいいのか」という視点を重視しているという特徴を持っています。ここでもそれが如実に表れています。特に,最後の「分詞構文全般についての注意」はなかなか見事です。わかりやすさや見やすさもかなりいいですね。

 

今回は,基礎レベルのポイントで,こういうものでは「FOREST」のよさが出ています。「詳解」のくわしさも捨てがたい。

次回は,ちょっと特殊なもの,専門的なものを取り上げる予定です。

 

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