今回から,
あなたが英文法の何かのポイントについて疑問をいだいたら,参考書はどのように解決してくれるのか?
ということについて,適当なポイント(まったく恣意的)を選んで,各参考書を調べて比較してみることにします。
「同族目的語」って何?
先に答合わせをしてしまうと,。「同族目的語」はふつうは自動詞なのに,同形(派生形)の目的語ならばとれる(つまり他動詞として使える)というポイントですね。
たとえば...
dream 「夢見る」という動詞は,日本語では「明るい未来を夢見る」といえますが,英語では dream a bright future とは言えません。正しくは, dream of a bright future です。dream は自動詞であり,自動詞は目的語をとれず,前置詞(ここではof)がないと a bright future は目的語になり,dream は自動詞でなくなってしまう,というわけです。ま,「~を夢見る」は dream of ~ だと覚えればいいということです。
ところが...
その自動詞の dream が他動詞として使える場合があります。それが「同族目的語」の場合です。 dream a beautiful dream 「美しい夢を見る」という表現では, of なしで動詞 dream が dream という目的語を伴っています。直訳すると「美しい夢を夢見る」ということになります。一部の自動詞は,その動詞と同じ形(または親戚の)名詞に限り目的語を取ることができる,これが「同族目的語」というポイントです。ただし,dream a ~ dream という形はかなり古めかしい英語になっていて, have a ~ dream のほうがふつうになってしまいました(haveだと「同族」とは言えませんが)。日本語では「見る」ですが, ☓see a ~ dream ではないことも注意が必要です。
こういうのは,目次では探しにくい参考書ではたいてい「動詞」の章の「自動詞」か「他動詞」の項に載っているだろう。「目的語」について「動詞」の項目を探すなんてのは,「同族目的語」がどういうものか知っていて可能になるので,それを知らない人にはムリ。ということは,索引で探すしかありません。以下,参考書をいくつか当たってみましょう。
★ 総合英語Forest
あれっ?「同族目的語」という項目が索引にない。本文の動詞の章にも見当たらない。
やはり,項目を絞って通読用に作っているのでしょうか?
★ ロイヤル英文法―徹底例解
「同族目的語をとる動詞」という項目にほぼまる1ページ使っていて,さらに巻末にはその形になる動詞のリストがあります。他書と比べ,量的にいちばん多いでしょう。
定義は,「本来は自動詞だが,動詞と語源的に,または意味上関連のある語を目的語としてとる場合がある。こういう目的語を同族目的語( Cognate Object )という」。
詳しく分類していて,(1) 同族目的語が動詞と同形または同語源である場合 (a) 動詞+副詞でかき変えられるタイプ die a ~ death (= die ~ly) (b) られないタイプ sing a ~ song (≠ sing ~ly )(2) 同族目的語が動詞と意味上関連のある場合 fight a ~ battle (3) 最上級の形容詞だけが残り,同族目的語が省略される場合 breathe one’s last (breath) 「息を引き取る」 に分けられています。それ以外には,よく使われる例と,使われない例(dream),巻末リストには20の動詞が挙げられています。
★ 表現のための実践ロイヤル英文法
全体的には,ロイヤルとほぼ同じです。ロイヤルの定義から「語源的に」の部分を削除していたり,4タイプの分類だったのを2タイプにしていたりと簡略化が目立つが,「リスト」がないのが残念。最上級付きの場合のこともなくなってますね。
特徴は,ロイヤルにあった「よく使う例」を前面に打ち出して,「統計によると,最近の例文では, smile a ~ smile, live a ~ life が最も多く, die a ~ death, sing a ~ song, laugh a ~ laugh などがその次に多い。ほかに, fight a ~ fight[battle], sleep a ~ sleep, breathe a ~ breath なども見られる」という部分。
★ 英文法解説
《参考》欄に 「通例は自動詞として使われる動詞の中に,a) 動詞と同語源の名詞または b) 動詞と縁のある名詞を目的語とするときに,他動詞化するものが少数ある。この場合の目的語は同族目的語(Cognate Object)と呼ばれる」という説明と,smile, live, dream, run の例文があります。
簡潔な,他よりも少なめの説明ですが,「他動詞化」だけで理解できるならこれで十分です。
★ 英文法総覧
「同族目的語」はこの本の中の2カ所で項目として取り上げられていますが,定義は後の方で出てきます(なぜ?)。説明はあっさりしていて,「本来自動詞である動詞が,意味上,密接な関係にある名詞を目的語とすることがある。この種の目的語を同族目的語という。」後は例文で,live, die, fight, run など。
「研究」の項には,他書と同じく,同族目的語は形容詞を伴うのがふつうであると記されていますが,「同族目的語は,意味上,それ自身ではなんら新しい意味要素を付加するものではな」く,「形容詞的修飾語句がついてはじめて言うに値する意味情報が加えられる」という,形容詞を伴う理由が書かれています。このへんがこの本らしいところかな。
★ 英文法詳解
「注意すべき目的語」という項目があって,「通常は自動詞として用いられる動詞も,時により,次のような目的語を取って他動詞的に用いられることがある。」という説明の下に (1) 同族目的語 (定義 「動詞と同形または語源的に関係のある名詞。《このような目的語を同族目的語(Cognate Object)という》」)(2) 「~によって・・・を示す」と訳すのがよい場合 (3) 目的語が,動詞の表す動作の道具や結果を表す場合 という3つのポイントを挙げています。(2), (3) は同族目的語とは直接関係はないのですが,(2) nod his approval (承認をうなづく→うなずいて承認の意を示す)とか (3) fire a hole (「銃を撃つ」ならふつうだが,「穴を撃つ」→「撃って穴を開ける」)などは,読解・翻訳で取り上げられる(文法ではあまり取り上げない)ポイントなので興味深いところです。
同族目的としては「研究」の中で,1. 同族目的語には形容詞がふつう付く 2. 動詞と同語源ではない類語の場合 (fight a battle, run a race) 3. 同族目的語に最上級が付くと名詞が省略 という3つの注意点が挙げられています。ほぼロイヤルと同じくらいの詳しさです。
今回は,詳しさで「ロイヤル」「詳解」の二つがほぼ同点。「リスト」がある分「ロイヤル」の勝ち,というところ。「解説」「総覧」はすでにだいたいのことがわかっているのが前提になっているようです。
これだけでも各書が何がやりたいのかが少し見えてきます。「表現のための」はタイトルどおり,「今,使うとしたらどう使うか」という視点を(すでにある英語を理解するよりも)重視していますし,「詳解」は日本語との差異,訳す上での注意点などを意識しています。