大修館の英和辞典シリーズは,他の出版社のものと比べ,非常にスッキリした構成になっています。
すべてに「ジーニアス」の名がつき,中辞典が
- 「ベーシック」<「プラクティカル」<無印「ジーニアス」(以下「ジーニアス」)
の3レベル,これを大辞典の「ジーニアス英和大辞典」が補完するという構成です。
辞書 |
対象 |
収録語数 |
その他 |
ベーシック | 中高 | 4万 | 旧版は,ヤング・ジーニアス |
プラクティカル | 高校 | 6万 | 旧版は,フレッシュ・ジーニアス,アクティブ・ジーニアス |
ジーニアス | 高校~一般 | 9万6000 | 略称 G4 |
ジーニアス大英和 | 一般 | 25万5000 | 略称 G大 |
内容
筆者が所有しているのは,「ベーシック」を除く3種類です。したがって,「ベーシック」に関しては推測が混じりますので,それを念頭に置いてお読み下さい。
大修館の「ジーニアス・ファミリー」は,まず主力辞書である「ジーニアス」をベースにして,そこから高校生には難解そうな箇所を取り除くことで「プラクティカル」を作っているのではないかと思われます。「ジーニアス」と「プラクティカル」は見た目でもよく似た印象を受けます。当然「プラクティカル」独自の内容もありますし,例文の入れ替え・追加もありますが,それほど大きく変わったようには見えません。それに対し,「ベーシック」は「プラクティカル」をさらにやさしくした面も強いのですが,店頭や組見本で見る限り,雰囲気的にはずいぶんやさしく作ってあります。「ベーシック」はカタカナ発音を付記したり,イラストを多用したりしていること,「ジーニアス」「プラクティカル」ほど文字でぎっしり埋まっている印象がないこともその理由でしょう。
大修館のホームページには,組見本(現物の見本)がありますので,比較してみるといいでしょう。
これらは,同じ項目の比較ではありません。同じ項目で比較すると,各辞書の特色がよくわかると思います。
「ベーシック」の組見本には,"borrow" と "both" が載っていますので,「プラクティカル」と「ジーニアス」の同じ項目(bothは代名詞のみ)を比べてみましょう。
borrow
★ 意外なことに,「ジーニアス」の方が使われているスペースが狭いですね。1aの意味の例文も「プラクティカル」が1つ多く載っています。対話の例文があるのも「プラクティカル」と「ベーシック」だけ。「ジーニアス」は簡単なことにはスペースを使わない主義のようです。
★ 「類語比較」「使い分け」にははっきり特徴が出ています。「ジーニアス」は過去の用法も含め詳しく使い分けが出ていますが,「プラクティカル」は詳しさよりも明解さを重視しています(レイアウトもすっきり)。「プラクティカル」にはhireについての言及もありません(でも,なぜか「ベーシック」にはある)。
★ 「ジーニアス」では例文の中で見出し語が登場する時に「~」で表記されています(例: You can ~ these books …)が,この慣習的な表記法は「プラクティカル」「ベーシック」では使われておらず,You can borrow these books … となっています。他社でもだいたいそうで,高校生用辞書ではスペルアウトすることが多いようです(「ジーニアス」相当レベルの辞書では,「ウィズダム」がスペルアウトしている)。
★ 最初に出ている「本義」(プラクティカル)と「原義」(ジーニアス)という言い方のちがいもおもしろい。「原義」は語源的な意味の変遷,「本義」は歴史・通時的観点ではなく,現在の意味のコアを表しているのでしょう。
both
★ 「プラクティカル」と「ジーニアス」では中身の各項目上は大きなちがいはありません。ただその項目が書かれている場所がちがっているだけです。例文は「ベーシック」も含め同じものを使っていることもあります。
★ 「ジーニアス」では「純然たる代名詞の例」とか「限定複数名詞」とか,多少文法用語の知識を前提とした表現が見られます。もっとも「限定複数名詞」は語法欄(3)で言い換えられていて,これは「プラクティカル」でもまったく同じものが語法欄にあります。言い換えだとわかるかどうかの問題は残りますが。
★ 「《米非標準》The both of us … 」という記述やboth の否定文での使用を「避ける方がよい」という記述は「ジーニアス」独自です。前者はともかく,後者は「プラクティカル」に入れてもいいと思うのですが。イントネーションのちがいで意味の違いが生じるというポイントよりも実践的にはだいじだと思います。イントネーションの矢印表記はそもそもわかりにくいですし。
★ このイントネーションについては,「ベーシック」にも出てきます。逆に「ベーシック」には of + 限定複数 に関する記述がかけています。大学入試的にはこっちの方がはるかに重要ですけどねえ。共有(Both of us have a desk.)と別々の所有(Each of us has a desk.)についても「ベーシック」にはありませんが,これをカットしたのは理解できます。逆に,「ベーシック」で「部分否定・全面否定」という用語を使っているのがどうかな。まあ,訳からわかればいいのですが。
付録
「ベーシック」の付録
「和英索引」「文法の手引き」「接頭辞・接尾辞一覧」「不規則変化表(動詞・名詞)」
「プラクティカル」の付録
「和英索引」「文法のまとめ」「文法用語集」「発音注意の語一覧表」「語要素一覧」「不規則変化表(動詞・名詞)」
特に「プラクティカル」の付録はなかなかすぐれものです。高校生用辞書の中ではいちばんかも。でも,みんな使わないんですよね,こういうの。
まとめ
以下は,あくまでも筆者の個人的な意見です。
- ジーニアス・ファミリーは,どれも優れた辞書である。
- 特に,英語が得意な生徒,文法用語が苦にならない生徒なら,自分の学年に応じて「ベーシック」,「プラクティカル」,「ジーニアス」のどれかがおすすめできる。
- ただ,「ベーシック」でも中学生ならかなりのチカラがないと使いこなしはむずかしい。
- 「プラクティカル」と「ジーニアス」両方を使ってみてもそれほど違いを感じないと思われる。大学受験生は多少がんばって「ジーニアス」を使ってみるのもひとつの手だ。
- 新聞や原書に触れる大学生・一般の人は,語彙数の面から考えて,「ジーニアス」の方がいい。当然,「ジーニアス大英和」を含む大辞典も視野に入れるべき。
- 逆に,新聞や洋書を読むわけではない一般の人,「久しぶりに英語でも」という人は「プラクティカル」の方がいいかもしれない。
大修館の英和辞典ラインナップ
- 順番は大ざっぱに,小中学生対象から始まる難易度順です(企画ものは別)。
- 品切れ・絶版・在庫切れなどは×印がついています(2009年8月現在)。
- 表のセルに色がついているものは,同一色なら同一内容の辞書の別バージョンであることを示しています。
- 「出版社による解説」の項は,各社のホームページにあった解説を転記したものです。
タイプ |
辞書 |
編著者 |
価格 | 品切 |
出版年月 |
対象 |
出版社による解説 |
中辞典 | ベーシックジーニアス英和辞典 | 小西友七 原川博善 編集主幹 |
¥2,835 | 2002年11月 | 中学~高校 | 楽しく引ける「いちばんやさしいジーニアス」。学習の手掛かりと して、シンプルでわかりやすいカタカナ発音表記を採り入れ、またコミュニケーション学習に対応して、実際的な対話用例、会話の決まり文句を多数収録した。 基本語の語義の図解、高校生の疑問に答えるQ&A欄、自動詞・他動詞の関係の図示など、親しみやすくする工夫満載。 ◆発音表記と併記したわかりやすい発音表記で、スムースに英語へ。 ◆[bet A on B]のように、文型が一目でわかる形式で表示。文法用語は最小限に。 ◆自動詞・他動詞の関係、可算・不可算名詞の関係を明示。 ◆基本的な語については、成り立ちや語義を図解。 ◆語法・文化・日英比較などを「Q&A」欄でわかりやすく解説。 ◆コミュニケーション学習に活かせる生き生きした対話用例を満載。 ◆生徒に語りかける「文法の手引き」、便利な「和英索引」「接頭辞・接尾辞一覧」「不規則変化名詞表」などの付録が充実。 |
|
中辞典 | プラクティカルジーニアス英和辞典 | 小西友七 東森勲 編集主幹 |
¥3,045 | 2004年11月 | 高校生 受験生 |
辞典本文と巻末の「文法のまとめ」を連携させ、高校生の総合的な 英語力を育てる新型辞典。ジーニアスシリーズで定評ある語法解説をわかりやすく簡潔にまとめ、重要なポイントは[!]印で明示、類語の用法には[使い分 け]をつけて見やすくした。多義語の語義をグループ分けして配列を工夫する一方、日本の事情・文化を発信する[日本発]、英語のセンスが身に付く平易な [ジョーク]など用例も充実させた。 | |
中辞典 | ジーニアス英和辞典 第4版 |
小西友七 南出康世 編集主幹 |
¥3,465 | 2006年10月 | 高校~一般 | 発刊20年目を迎えた学習辞典のトップランナー『ジーニアス』が史上最大の改訂。見出し語・語義区分・用例・発音を最新の使用実態に即して大幅に見直したほか、コラムや図表をふんだんに盛りこみ、ゆったり読めるA5サイズのジーニアス。書き込みのしやすやもアップし、デスクでじっくり使える一冊に。 | |
中辞典 | ジーニアス英和辞典 第4版 革装 |
小西友七 南出康世 編集主幹 |
¥5,040 | 2007年3月 | 高校~一般 | 発刊20年目を迎えた学習辞典のトップランナー『ジーニアス』が史上最大の改訂。見出し語・語義区分・用例・発音を最新の使用実態に即して大幅に見直したほか、コラムや図表をふんだんに盛りこみ、見やすさもアップ。大学生・社会人も使えるパワフルな学習辞典。 | |
中辞典 | ジーニアス英和辞典 第4版 机上版 |
小西友七 南出康世 編集主幹 |
¥6,090 | 2007年2月 | 高校~一般 | 発刊20年目を迎えた学習辞典のトップランナー『ジーニアス』が史上最大の改訂。見出し語・語義区分・用例・発音を最新の使用実態に即して大幅に見直したほか、コラムや図表をふんだんに盛りこみ、ゆったり読めるA5サイズのジーニアス。書き込みのしやすやもアップし、デスクでじっくり使える一冊に。 | |
大辞典 | ジーニアス英和大辞典 | 小西友七 南出康世 編集主幹 |
¥17,325 | 2001年4月 | 一般 | 学習英和辞典のトップランナー『ジーニアス英和辞典』をはじめとする、大修館のジーニアス辞典群の頂点に立つ待望の大辞典の誕生。収録語句は25万5000余。"語法に強いジーニアス"の伝統を引き継ぎ、記述主義的な観点から語法解説を一段と強化。またコンピュータ用語、インターネット用語をはじめ、新語・新語義・新複合語・新略語を1万以上収録した。新鮮な用例や語法解説は新聞・雑誌・百科事典などの膨大なナマの英語データに基づいており、的確で明快。また、地名・人名のほか生活語彙など文化的情報も充実。豊富な写真・図版を多用して、新時代のあらゆるニーズに応える最新の英和大辞典。 | |
大辞典 | ジーニアス英和大辞典 背革装 |
小西友七 南出康世 編集主幹 |
¥19,425 | 2001年4月 | 一般 | 学習英和辞典のトップランナー『ジーニアス英和辞典』をはじめとする、大修館のジーニアス辞典群の頂点に立つ待望の大辞典の誕生。収録語句は25万5000余。"語法に強いジーニアス"の伝統を引き継ぎ、記述主義的な観点から語法解説を一段と強化。またコンピュータ用語、インターネット用語をはじめ、新語・新語義・新複合語・新略語を1万以上収録した。新鮮な用例や語法解説は新聞・雑誌・百科事典などの膨大なナマの英語データに基づいており、的確で明快。また、地名・人名のほか生活語彙など文化的情報も充実。豊富な写真・図版を多用して、新時代のあらゆるニーズに応える最新の英和大辞典。 |