「もしあなたの愛が報われないなら,つまり自分の愛に応えて相手の愛をよびおこすことがなければ,もし「愛する人」として自分を生き生きと表現することを通じて「愛される人」になることができなければ,あなたの愛は無力であり,それはひとつの不幸である。」 (カール・マルクス 『経済学・哲学草稿』 The Economic and Philosophical Manuscripts translated from German into English by Gregor Benton)
若きマルクスのロマンチックなことば。たぶんまったく有名ではありません。
この本を読んだのは確か中3か高1のはず。もちろん内容なんかろくに分かりはしないので,こういう文句だけ印象に残ったりするわけです。実際,ここ以外何も覚えていません。
なんであのマルクスが恋愛の話なんかしているかというと,これは「貨幣の物神性」とやらの話で,貨幣は何でも買えるがゆえに価値の転倒を引き起こし,すべてのものを交換し・混同させる,というくだりです。
He who can buy courage is brave, even if he is a coward. Money is not exchange for a particular quality, a particular thing, or for any particular one of the essential powers of man, but for the whole objective world of man and of nature.
勇気を金で買える者は,本人が憶病であっても勇敢となる。貨幣は特定の性質・物,人の持つ本質的な能力のどれか一つ特定のものとの交換手段なのではなく,人と自然の全客観的世界との交換手段なのである。
でも,人が人である世界(つまり貨幣が崇拝されていない世界)では,本来どうなのか,ということで冒頭の引用箇所が次の引用に後につながります。
If we assume man to be man, and his relation to the world to be a human one, then love can be exchanged only for love, trust for trust, and so on.
もし,人が人であり,人間と世界との関係がヒューマンなものであると想定するなら,愛は愛とだけ交換でき,信頼は信頼とだけ交換できるはずだ。
この「愛を愛とだけ交換する」という文句が,ガキの私にガンガンと響いたのでしょうね。そしていつものように,文脈を離れて拡張解釈して,「愛をお金と交換するのはよくないとして,顔かたち・見てくれ・才能その他もろもろと交換するのはどうなの?」と飛躍していきます。これらは貨幣とは異なってその人の本質的属性の一部なのだから関係ない,という言い方はお子ちゃまのわたしには理解できなかったのかもしれません。どんな世の中になろうが,愛は愛以外のものとも交換可能なのでしょう。
理論やら抽象的議論やらを文学的に読み替えてしまう癖は,今でも治っていません。文学的というよりは,ロマン主義的・感傷的・浪花節的...なのかな。