英和辞典を選ぶ

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電子辞書全盛の時代ですが,書籍の辞典も捨てがたいものがあります。

探している語にたどり着くまでの検索の便利さにおいてはかないませんが,いちどたどり着いてしまえば電子辞書は例文・熟語・本文を何度も行き来しなければならず,そのためにキーを何回も押すことになりますが,書籍の辞書はその点一覧性に優れ,広い範囲に目をやれば比較的はやく必要な情報を得られますし,何より予想もしていなかった知識に出会う意外性もあります。

特に,電子辞書に搭載されているのは「ジーニアス」がほとんどであり,それ以外の選択肢を考える場合,あるいはセカンド(サード,…)ディクショナリーが欲しい時には,値段から言っても本で入手するのがいちばん合理的です。

ここでは,書籍版を中心に英和辞典の選び方を考えてみたいと思います。

  • 電子辞書については → こちら
  • 「ジーニアス」「ウィズダム」「ルミナス」「ロングマン英和」を比較したブログの連載記事は → こちら

 

英和辞典の現状 ― ジーニアス革命以後

辞書には,はやりすたり のようなものがあります。三省堂の「クラウン」が君臨していたのは1960年代くらいまででしょうか。その後,大学受験生ならば誰もが研究社「英和中辞典」を使っていた時代が長く続きました。そして1987年大修館書店の「ジーニアス英和辞典」が登場し,あっという間に「英和辞典=ジーニアス」という時代が幕を開けました。20年以上たった現在も,いまだこの牙城は崩されていません。

「ジーニアス」が画期的なのは,充実した語法情報だったと言われています。すべての名詞には《可算・不可算》の表示,すべての動詞には《動作動詞・状態動詞》の表示がされ,それ以外にも語法(単語の使い方)について,こういう使い方は×とか〇とか,豊富な知識を与えてくれる驚きと新鮮さがありました[1] 。 辞書とは単語の意味を調べるためのもの,という固定観念から飛躍した,英語辞典の新時代を「ジーニアス」は切り開いたといっていいでしょう。

しかし,それから20年。いまだに他の辞書は追いついていないのかと言えば,当然ながらそんなことはありません。各社・各辞書は正確さ,読みやすさ,情報量の豊富さ,斬新な切り口を競って,次々とあらたな辞書を送り出しています。「ジーニアス」はいまだにすばらしい辞書ですが,他の辞書が劣っているとも思えません。それぞれに長所があり,その長所において「ジーニアス」をしのいでいるものはたくさんあります。実は,私の愛用のファースト・ディクショナリーは「ジーニアス」なのですが,しかし「ジーニアス」による市場の寡占化は憂慮すべきことだと考えています。

「ジーニアス」への批判は,おもに記述の難しさに集中する傾向があります。英語教育のコミュニケーション志向,高校生の「学力低下」傾向などが,この批判には追い風となっていますが,といって「ジーニアス」の天下を乗っ取って新たな時代を告げるだけの決定版は見当たりません。というより,もともと決定版の辞書など存在しないし,すべきでもないのかもしれません。

 

様々なタイプの辞書 ― どのタイプを選ぶべきか?

現在,各社が出している辞書には,次のようなタイプがあります。まず判型,大きさで分けると,

  1. 大型英和辞典
  2. 中型英和辞典
  3. 小型英和辞典

となります。市販の辞典の多くは2.の中型辞典で,小中高大一般を問わず,おすすめするのはこのタイプです。

1. の大型英和辞典とは単に判型が大きいだけでなく,収録語数[2] や収録例文数や解説の多さでも他を圧倒するタイプの辞書で,現在市販されているこのタイプは 5つしかありません。

  • ランダムハウス英和大辞典」(第2版 1993) 小学館 — 収録語数 34万
  • ジーニアス英和大辞典」(2001) 大修館書店 — 収録語数 25万
  • 新英和大辞典」(第6版 2002) 研究社 — 収録語数 26万

で,これに続くのが,

  • リーダーズ英和辞典」 (第2版 1999) 研究社 — 収録語数 27万
  • グランドコンサイス英和辞典」(2001) 三省堂 — 収録語数 36万

 

わかりやすいのは値段のちがいで,この5冊は8000円~2万円超という価格設定です。「ジーニアス」「ルミナス」「ウィズダム」といった各社の主力辞書(中辞典)はだいたい3000円台ですので,はっきりと差がついています。

これらを必要とするのは,大学生以上であり,英語のプロであればこのうちの2~3冊は持っておきたいところでしょう。[3]

といっても,日常使うのはやはり中辞典が中心でしょう。この稿でも,中辞典を中心に扱います。

逆に,3.の小型辞典は,はっきり言っておすすめできません。おすすめするとしても,対象は限られます。

そもそも小型辞典は,「重たい辞書は持ち歩きにくい」という動機から普及したものですが,さらに小型軽量の電子辞書が登場してからは,存在意義が急速に薄れています[4] 。小型辞書はそのボリュームからして,「単語の意味が羅列してある」こと以上のものはあまり期待できず,学習者向けではないのです。[5] 私も過去にはずいぶんこのタイプのものも使ってみましたが,使えば使うほど中途半端で不満が募り,結局,大型か中辞典かに戻ってしまいました。

したがって,小型辞典を使ってもそれなりの効果が期待できるのは,すでに十分な英語力があって,新聞などを読むために意味を調べるだけでよいと割り切れる人,あるいは逆に,小中学生で必要情報量が少なくてよい人,ということになります。

 

また,

  • (ふつうの)英和辞典
  • 英和・和英合冊型辞典

というタイプ分けもできます。小中学生なら,合冊型を持つ利点もありますが,高校生,特に大学受験を控えた高校生以上なら,別々の辞典を持つ方がいいと思います。なお,高校生向けの英和辞典には,名前は「英和」になっていても「和英付き」のものもあります。

 

さらに,対象別では,

  • 小学生向け辞典
  • 中学生向け辞典
  • 高校生向け辞典
  • 大学生以上向け辞典
  • 外国人向け辞典

などがあります。

それぞれ,具体的にどんな辞書があるかは,それぞれのページを見て下さい。ここでは,一般的な注意点に触れておきます。

● 小学英語は辞書など使わないというのが文科省の方針のはずですから,無理して買う必要はないでしょうが,今のところまだ今後どういう流れになるのか不明です。買うとしても辞書らしくない楽しそうなもの,というのが無難な選択でしょう。

 

● 中学生でも,持ってはいても使っていない生徒が案外多いようです。教材が辞書なしでもOKというようにできているからです。買うのであれば,ホントの中学生用を買うことをすすめます。つまり,「将来も使えるように」などとは考えないことです。使えきれないものを買って英語嫌いになっては(させては)元も子もありません。[6]

 

● 高校生向けの辞書は各社がいちばん力を入れる辞書です。ここにはほぼ2系列のタイプがあります。1つは,高校1~2年,あるいは3年でも英語が苦手な生徒向けの純粋に高校せい向けの辞書。もう1つは,各社の商品解説では「高校生~一般」向けと記されているタイプで,大学生でもそれ以上でも使えるような辞書です。例えば大修館のラインナップで言えば,「プラクティカル・ジーニアス」が前者,「ジーニアス」が後者,研究社で言えば「ライトハウス」前者,「ルミナス」が後者です。前者は記述をやさしめに押さえたり,入試問題や入試のポイントを入れたりしていますが,後者は「入試」という観点はほとんど入っていません。

各社の辞書ラインナップの中で,もっとも重点が置かれ,全体的に見ればもっとも売れているのがこの後者のタイプです。上の分類の「大学生以上向け辞典」というのも,この後者タイプが中心です。

高校生なら,どちらを選ぶべきか?これは,今の学力と目指すものしだいです。収録語数では後者の「高校生~一般」向けの方が多いですから,慶應・上智・青山などの英語の雑誌や新聞をそのまま出題しているような長文でも困ることはないでしょう。それにこのタイプを選べば,多少むずかしいかもしれないですが,でも大学に入って買い換える必要はないでしょう。前者の純粋「高校生向け」だと,大学で買い換えた方がいいかもしれません。ただ,英語力にかなり自信がない人にはむずかしく見えるかもしれません。純粋「高校生」向けにするか,または「高校生~一般」向けの中でも「ジーニアス」よりもやさしめな「ルミナス」あたりにする,という手もあります。[7]

なお,辞書ランクと大学受験ランクの関係に触れておくと,純粋「高校生向け」辞書であっても「ライトハウス」級のようなすぐれた辞書であれば,志望校が東大だろうと早慶だろうと,困ることはまったくありません。

 

● 大学生以上も,今言った理由から「高校生~一般」向けでいいでしょう。上の「大型辞典」でカバーするのがベストです。なお,一般の人なら,むしろ実力に応じて中学生向けや高校生向けを選択した方がいい場合があるのはもちろんです。

 

それ以外の辞書のタイプとしては,「企画もの」とでも言うべきものがあります。他の辞書とはちがう特徴をつけたもので,

  • 発音のかな表記
  • 図解辞典
  • シニア向け大活字

などがあります。最近は,別に「企画もの」でなくとも,個性を前面に出している辞書[8] もあって,なかなかおもしろいのですが,好き嫌い,なじめるなじめない,がはっきり出てしまうかもしれません。

 

なお,内容と関係ありませんが,1つの辞書に大きさや装丁を変えた複数のバージョンがある辞書もあります。「革装」「机上版」「中型版」と付記されているものです。「革装」は辞書の表紙を皮革で装丁したもの,「机上版」は中辞典を大型並みに組み替えたもの,「中型版」は小型辞書を中型サイズに組み替えたものです。内容は変わりません。あとは,あなたのお好みで。

 

 

出版社別の辞書選び

辞書はあちこちの出版社で出版されていますが,さらに,1つの出版社がいくつもの英和辞典を出しているため,あらかじめ知識がないと選ぶのはなかなかむずかしいものです。

 

まず各社には,主力辞書というものがあります。カタログやホームページのどこにも「これがうちの主力辞書だ」とは書いてありませんが,ちからの入れようは明らかにちがっています。そんなに売りたがってはいないように見える辞書もあります。[9]

上で書いた「高校生~一般向け」の辞書は,いちばん売れる層(受験生・大学生・一般)を対象としているので,どの会社も力を抜いていません。これを便宜上「ジーニアス相当辞書」と呼んでおくと,これを中心に各社のラインナップを見直すと,出版社がどういう方針で辞書の体系をくんでいるのかが見えてくるかもしれません。

 

= ジーニアス相当辞書 =

大修館 ジーニアス英和辞典
研究社 ルミナス英和辞典
三省堂 ウィズダム英和辞典
小学館 プログレッシブ英和中辞典
旺文社 オーレックス英和辞典
学研 アンカーコズミカ英和辞典
東京書籍 アドバンスト・フェイバリット英和辞典
ベネッセ Eゲイト英和辞典
桐原書店 ロングマン英和辞典

 

これらはすべて各社の主力辞書であり,フラグ・シップです。すべて「高校~一般」向け,つまり,「英語力不足の高校生にはちょっとむずかしいかもしれないが,とりあえず持っていれば大学に入っても,就職しても使えるし,やさしすぎるって思うことはない辞書」です。上の9冊はどれもすばらしい辞書であるとわたしは思います。どれを選んでもハズレではありません。

あらかじめ,そうフォローしておいた後で....

あまり優劣をつけたくないのですが,辞書時編集自体に新規参入した後発のベネッセ,桐原は,まだ改良の余地が多いと思います。「Eゲイト」は「コアに基づいた独自解説」が売りなのですが,それが生きているのは一部の基本語だけです。「ロングマン」はブログ連載で詳しく取り上げましたが,訳語の選定という辞書の足腰の部分はしっかりしていて,将来性はすごく期待できる辞書です。ただ,解説の詳しさというのは,辞書作成の蓄積がないとなかなかむずかしいでしょうから,後発には不利かもしれません。

上の7冊は,どれも完成度の高い辞書です。アマゾンのレビューなどでは,不満の声も載ることがありますが,ミクロレベルの差であったり,引いた単語がたまたま欠点に当たったというだけであったり,自分の用途に合っているいないの話であったりと,一般化するのはむずかしいと思います。どれもよくできているなあ,と感心します。ただし,あなたに合っているかどうかとなると別問題です。

 

むろん,これ以外にもいい辞書はあるのですが,各社の辞書ラインナップの中には「そんなに良くはない辞書」「いい辞書なんだけど,出版社がもうチカラを入れていない辞書」が混じっています。こんどは「ハズレを引かない」ための辞書選びのチェック・ポイントに触れておきましょう。

 

 

 

= ハズレを引かない辞書の選び方 =

  • 他の辞書より宣伝に明らかに力が入っている

    出版社のホームページの商品解説だけでも,チカラの入れ具合がわかります。例えば,研究社の中辞典では,「現代英和辞典」の説明はごくわずか,「新英和中辞典」は少し長くなりますが,「ルミナス」と「ライトハウス」は桁違いのスペースを宣伝に使っています。研究社は「ルミナス」「ライトハウス」を暗に推しているわけです。
  • 近年に改訂版が出ている

    近年は改訂のペースが早くなっています。「ジーニアス」は改訂が 1987 ―> 1993 ―> 2001 ―> 2006 に改訂しています。4版は5年で改訂したわけです。昔はもっとゆっくりだったんですけど。
    出版社は当然,「この辞書にはあまりチカラをいれてません」などと口走ることはありませんが,チカラの入れていない辞書は改訂版がでないことでそれとわかります。。2002年,長くとっても2000年以降に改訂版が出ていない辞書は,早晩消える運命にあるかも,です。
  • 執筆陣やネーミングで判断する

    別に執筆者の能力やら業績を知る必要はありませんし,辞書作成はチームワークですから,ひとりの力だけで判断はできません。でも執筆者リストを比べてみると見えてくることもあります。
    たとえば学研の中型英和辞典は6種類,8冊ありますが,「山岸勝榮 編」のものと,「羽鳥博愛 監修」のものの2系統があることがわかります。さらに見れば,山岸シリーズは上位者向け,羽鳥シリーズは基礎レベル向けであろうと推測できます。
    ネーミングは,例えば旺文社では6種類のうち,近年改訂されているのは「レックス」のついた2冊と中学生向けの「オーロラ」です。ここから旺文社では中学生には「オーロラ」,高校生以上には「レックス」シリーズを売りたいのだとの推測が可能です。
    これに,改訂版の出版年情報を加味して考えると,旺文社は「英和中辞典」を捨てて,それを「レックス」シリーズに包摂しようとしているのかな,などと考えることもできます。

 

 

= 2000年以降に改訂されている辞書(中型・英和) 選択候補=

上の条件を考慮してふるいにかけると,次のような候補が残ります。

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出版社別のページ

  • 大修館
  • 研究社
  • 三省堂
  • 小学館
  • 旺文社
  • 学研
  • 東京書籍・ベネッセ・桐原書店
  • その他

おすすめする目的別・習熟度別英和辞典

特定の辞書をお薦めして売り上げに貢献する義理があるわけではないし,まして,各社の辞書が激しい競争をしていて,レベルに大差がついていない現状では選ぶこと自体がかなりむずかしい作業です。以下で,対象別のおすすめ辞書をいくつか取り上げますが,あくまでもわたしの個人的な意見です。

  • 小学生
  • 中学生
  • 高校生・大学受験生
  • 大学生
  • 一般
  • セカンド・ディクショナリー
  • ペーパーバック・新聞などを読む
  • 各種の英語試験用
  • そもそも辞書を引く習慣がない人
  • 辞書ヲタク

 

さいごに

この世に完全な辞書はありません。間違いやかけている事項は,どんな辞書でも探せば必ず見つかります。あなたに完璧に合った辞書というものも存在しません。辞書はかゆいところに手が届かないことが,いつでも存在します。結局,自分にあった辞書を探すよりも,自分が辞書に合わせていく方が早いかもしれません。

時代が変わるにつれ,辞書は変わっていきます。進化していると言ってもいいでしょう。しかし,英語を外国語として学ぶ人間にとって,必要な辞書が10年や20年で激変することはまずないでしょう。

これからも進化し続けるでしょうが,進化の飽和点は近いかもしれません。

 


  1. こういう表示はえてして単純化した記述になりやすく,それを批判するネイティブ・スピーカーもいたのは確かです。 [▲ 戻る]
  2. 収録語数で言うと3つの「大辞典」より,ワンランク下の2冊の方が上回るのがおもしろい。 [▲ 戻る]
  3. この5冊のうちでどれがいいかは,微妙な問題です。翻訳者・翻訳業務必携と言われる「リーダース」,伝統の「新英和」,電子辞書に搭載されることが多い「G大」あたりでしょうか。「ランダムハウス」は,私は好きな辞書ですが,改訂が止まっているのが気がかりです。 [▲ 戻る]
  4. もちろん電子辞書は値段の問題がありますが [▲ 戻る]
  5. 辞書は意味を調べるだけのものではありません。辞書から適切な意味を選択するためには,例文や語法情報が不可欠です。小型辞典はこれらが不十分なのです。 [▲ 戻る]
  6. 英語が得意で,好きで,難関私立高校を受けるというのなら,「中学~高校向け」でもだいじょうぶでしょうが。 [▲ 戻る]
  7. 「ジーニアス」はむずかしい,と言っていますが,むずかしいのは分厚い辞書全体の中のごく一部です。そんなに大きく変わるわけではありません。むしろ,全体の印象,文字ばっかりでイラストが少なく堅苦しい,といったイメージが「むずかしい」という印象を与えているのだと思います。 [▲ 戻る]
  8. 三省堂「エース・クラウン」やベネッセ「Eゲイト」系。 [▲ 戻る]
  9. なぜ,たいして売れないのに残しているのかは,よくわかりません。昔からの名前があって残しているのか,執筆者の大先生に申し訳なくて絶版にできないのか,品揃えが貧弱になるので形だけ残しているのか。 [▲ 戻る]

 

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