単語を覚えるとはどういうことか?(3)

1個の単語を「覚えた!」と言えるための最低条件は,(1) その単語をヘタでもいいから正しく発音できる (2) その単語の意味を日本語で言える の2つでしょう。ただし,(2) では,品詞に注意してください。explain という単語の意味を聞かれて,「えーっと,『説明』だ!」と答えたのでは×です。正解はもちろん『説明する』で,名詞と動詞の違いですね。品詞を間違って覚えたのでは,読むときや,文法問題に対応する時に困ってしまいます。(3) として,その単語を正確につづることができる,という条件 もできるだけクリアしてほしいところです。日本語を見て英単語を思い出して書く,というのは,これらの中ではなかなか難しいですが,ここまでできれば,とりあえずその単語は「覚えた」と言えるでしょう。

さて,たとえば「メインテインってなーんだ?」と聞かれて,「えーっと,つづりは maintain,意味は『維持する,主張する』,品詞は動詞」と答えられたとします。もちろん正解です。大学受験生としては,とりあえずここまででいいのですが,本当は目標はこの先にあります。

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この「単語を覚えるとはどういうことか」シリーズで私が言いたいのもここなんです。ただしここから先は入試を超えたレベルの話です。

その英単語に対応する日本語を覚えることは,単語を覚えることの第一歩だが,第一歩にすぎない,ということです。その単語に触れたときに,いちいち日本語に直さなくても意味がすーっと頭に入って来る,本当はそういう状態を作ることが「単語を覚える」ことであるはずなんです。「そんなのムリっ!」というかもしれません。確かにすべての単語でそれができればネイティブになってしまいますし,ネイティブだってすべての単語を知っているわけではありませんから,わたしたち非ネイティブの人間にはかなり難しいことです。でも,難しいけどできないわけではありません。たとえば, It’s beautiful! という文を見て,「beautiful の意味は,えーっと」って考えますか?いちいち「美しい」という日本語を思い出してから全体の意味を考えたりしなくてもわかるでしょ。そういう「日本語を思い出さなくても理解できる」という状態が「単語を覚えている」という状態なんです。dog とか run とか簡単な単語ならできるはずのことを,簡単でない単語でもできるようにする,最終的にはこれが単語を覚えることです。

なぜこれが必要になるかというと,そうしないとスピードについていけないからです。会話やテレビ・ラジオの英語のリスニングだけでなく,長文を速読する際にも,1個1個の単語をいちいち日本語に変換してから理解していくのでは,いくら時間があっても足りなくなります。リスニングなら理解しないうちに次の文に進んでいるし,会話なら相手にムッとされてしまいます。よく「英語で考える」とか「英語脳を身につける」とか言ったりされますが,その実態は「日本語に変換しなくても理解できる」ということです。ただし繰り返しますが,すべての単語・すべての文でこれができるわけではありません。ネイティブにとっても難しい言葉やむずかしい文はあるのですから。

では,この力を身につけるためにはどうしたらいいのでしょうか。英英辞典を使うべきだと考える人もいます。英単語を英語で説明した辞典なのですから,日本語変換を経ないで単語を理解する上では,それも必要になって来ます。でも,理解することと身につけることは少し違っています。結局は,たくさん読んだり,たくさん聞いたりしてなじんでいくしかないだろうとわたしは考えています。

よく,「日本語を自然に身につけたように,英語も自然に身につけていくべきだ」という人がいますが,わたしの考えではそれができるのは上級に入ってからの話で,中級まではかなり意識的な学習(つまり,単語に対応する日本語の意味を無理やり覚える,文法を理屈で理解する)作業が必要です。そのレベルをクリアすれば,大量の英語に触れる土台ができるので,そこからは「自然に」「楽しみながら」学習できます。少なくとも日本にいて日本語で生活しながらの学習は,その方が近道でしょう。

さらに欲を言えば,ひとつひとつの単語のニュアンスや雰囲気,微妙な違いなども知っていかなければならなくなります。そうしないと,ギャグを聞いて(身振り・表情がおかしいギャグではなくて,ことばのギャグ)を笑うことも,美しい表現に感動することもできません。

結局,単語を覚えることに終わりはないのです。あたりまえですね。日本語の単語だってそうなのですから。一つ一つの単語には重みや個性や歴史があって,それを一瞬のうちに肌で感じ取ることができる,それが理想です。あまりに高いので実現不可能な理想でしょう。でも,ネイティブと同等になるというのはそういうことのはずです。ただし,もういちど言いますが,大学受験ではそこまで求められていません。そういう問題もないわけではないですが,それができなくても合格は可能です。

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