年末のブックガイド

2, 3年前までは,年末になるとその年に刊行された本についてのおすすめの紹介やら書評を載せた雑誌やムックが出ていたものでした。いろんな作家・評論家・学者たちの寄稿を受けて,なかなか読ませるものが多くて重宝したものです。

ミステリー界には「このミス」があって,こちらは今も健在ですね。これもいろいろ参考にさせてもらってます。ふだんからミステリー系をきっちりフォローしているわけではないので,「このミス」の書評・コメントの中から「読まねば」と思わせてくれるやつ,わたしに合いそうなやつなんかをピックアップして手帳に書き込んでいそいそと書店に出かけたり,アマゾンをのぞいたりするわけです。

「このミス」の同工異曲ものも出ているようですし,SFバージョン,ライトノベルバージョンなんかもあるみたいなのですが,肝心の(というのも変だが)一般書籍(というのも変だが)に関する年末恒例のガイドがここのところ刊行されなくなってしまって,年末の楽しみが一つ減ってしまった気がする。

この種のものでよかったのは,2004年まで(?)出ていた,「ことし読む本 いち押しガイド」という雑誌「リテレール」の別冊でした。寄稿者の顔触れも豪華でしたし,内容も製本も,「編集部,チカラが入ってるなあ」というつくりでしたね。ヤスケン死後,「リテレール」自体が止まってしまい,2005年からは出なくなったのが惜しい。

それを引き継いでわけでもないんだろうけど,「日本一怖い! ブック・オブ・ザ・イヤー」というのが,雑誌「SIGHT」の別冊として出ていました(2005年と2006年?)。こちらはちょっと薄めで,つくりも内容とあまり対応せずちょっと安っぽくて,本屋で見ても最初はこちらの意識をスルーしていました。それでも中身は悪くないし,類書もありませんでしたしね。でも,2007年年末は,結局出ずじまい。やっぱり買う人少ないんですかねえ。エライ先生方の原稿料に対して,ペイしないのかもしれません。これだけ世の中に書評ブログがあふれかえっていれば,需要がないのも当たり前なんでしょうか。

健在なのは,みすず書房で出ている「みすず」の1,2月合併号の「読書アンケート特集」くらいかな。これはこの出版社らしく,寄稿者も学者メインで理系の人も多く,本の選び方も小説は少なく,学術書中心のハイブラウなブックガイドです。「今年読んで興味深かった本」というテーマでのアンケートなので,古い本も入っています。この1,2月合併号が欲しくて,年間購読をした年もあったっけ。今年は買いそこなっていたのだけれど,4月になって横浜有隣堂ルミネ店で「みすず書房フェア」かなんかをやっていて,そこで手に入れました。ずいぶん遅れたけどね。

まだパラパラと見ているだけなのですが(もともと通読しませんが),「そんな本あったんだ」というものもあって楽しいのですね。ざっと見て,二人以上上げているのが目につく本は,

  • 田中純 「都市の詩学-場所の記憶と兆候」  これを挙げてる人がいちばん多いかも
  • 山本義隆 「16世紀文化革命」  これも多かった
  • 今村仁司 「社会性の哲学」   亡くなったからというわけではないでしょう
  • 亀山郁夫訳 「カラマーゾフの兄弟」  順当ですね
  • 福岡伸一 「生物と無生物のあいだ」  これも順当
  • 野矢茂樹 「大森荘蔵-哲学の見本」
  • 四方田犬彦 「先生とわたし」   この2冊は東大の神話的教師もの
  • ジョルジョ・アガンベン 「例外状態」 アガンベンはこれ以外も
  • テッサ・モーリス-スズキ 「北朝鮮へのエクソダス-『帰国事業』の影をたどる」 これは知らなかった
  • 蓮實重彦 「『赤』の誘惑-フィクション論序説」

ってなところでしょうか。買ったわりに読んでないのが多くて,わたしのコメントが書けなくて悔しい。

数学者の野崎昭弘さんが「ホームレス中学生」を挙げているのがビックリ。

「悪い方に悪い方にと流れてゆくような世相の中で,久しぶりに気持ちのよい,すばらしい本に出会った,と思いました。」

そうだったのか。

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