「ジーニアス」「ルミナス」「ウィズダム」「ロングマン」の4英和辞典の比較のシリーズ第12弾!そして,最終回!
最終回は,まずランダムに英語に関する疑問を先に用意して,辞書がそれに答えてくれるかを比較してみることにしました。今回は項目が多数になりましたので,各辞書の引用ではなく,ポイントを要約して比べてみます。
単語の意味の説明ではないですから,本来の辞書に期待すべきものではないかもしれません。英米のネイティブ向け大辞典には載っていないようなことです。日本の辞典でもかつてはこんなものは載っていないことが多かったのです。でも,最近の英和辞典は載ってるのですね。世界に誇りたいのですが,ありがたみがわかるのが日本人だけですから,どうしようもありません。
1 同格の that をとれる名詞にはどのようなものがあるか
the fact that he is still alive 「彼がまだ生きているという事実」などで使われている同格のthat節を導ける名詞は限られた名詞だけです。fact, news などは可能ですが,information, remark, letter はどうでしょうか?(この中ではletter がダメです) それが一覧できる項目を辞書に探してみます。
- ジーニアス — 68 個 の名詞が囲みの中にリスト
- ルミナス — 17 個 の名詞が囲みの中にリスト
- ウィズダム — 51 個 の名詞が囲みの中にリスト
- ロングマン — リストなし。 fact のみ例。
2 do the Ving という表現で,Ving にはどのような動詞が使えるか
「Vする」という意味の熟語表現です。the の代わりに,some, much , one’s などが使えます。
He did some reading this afternoon. 午後にちょっと読書をした。
- ジーニアス — リストなし。語意欄の例文として,reading, washing, ironing, shopping。
- ルミナス — リストなし。「語法」欄に例文として,shopping, cooking, washing, writing
- ウィズダム — 16 個の Ving が囲み記事の中にリスト(「表現」欄)
- ロングマン — リストなし。語意欄の例文として,ironing。
3 There is + 複数 となるのはどのような場合か
There + be 動詞 では,後ろが複数なら,There are になるはずですが, There is A, B, and C. のように,複数個の主語であっても is になる場合があります。
- ジーニアス — 「語法」欄囲み内で「《略式》では複数の語がきてもしばしば単数で受ける。通例 There’s となる」という記述。「単数名詞の列挙の場合に多い」とも。
- ルミナス — 特に記載されていないようだが,熟語欄に There is [are] … and … ・・・にもいろいろある という表現が載っており, is が可能であることを明示的にではないが認めている
- ウィズダム — 「語法」囲み内に,2つの場合の記述があり,「(a) (…) 主語が and で結ばれた複合主語になる時は,[動]の数が主語の最初の部分と一致することがある」として, There is a boy and two girls in the room. ≒ There are two girls and a boy in the room. という興味深い例文を載せています。「文法的に正しいとされる There are a boy and two girls in the room. は今では《不自然》に響くことも多い」ともあります。「(b) 《非標準・くだけて》では主語が複数でも短縮形の there’s が用いられることがある。 ▶ There’s some people upstairs. (ただし × There is some people … としない)」 とも。
- ロングマン — 記述なし。
4 moreover のはたらき
しばしば文頭で「その上,さらに」の意味で使われる moreover ですが...
- ジーニアス — 語意欄に「《文修飾》」「前述の内容を支持する情報をつけくわえるため」とある
- ルミナス — besides の項に「類義語」として,「もともとは besides より協調の意味が強く,前文よりもっと重要なことの追加に用いたが,現在では比較の意味は薄れ,単に前に述べたことを補強したりそれに付け加えるべき事柄や意見を述べるときに用いることも多い。格式ばった語で,会話で用いることはあまりない。」という記事。
- ウィズダム — addition の項に「読解のポイント」欄「列挙・追加の表現」があり,その中で in addition などと並んでmoreover を挙げている。ただし,他の語句との違いについては特に言及はない。
- ロングマン — 特になし。「コミュニケーションガイド」には furthermore についての記述はある
5 wear に当たる日本語
服を「着ている」,靴下を「はいている」,メガネを「かけている」は全部 wear で表現できます。ほかにどんな訳が可能でしょうか。
- ジーニアス — 「語法」欄囲み内に「着ている」「はいている』」など6個の訳と「訳に出てこない」場合を指摘。He wears false teeth. 彼は入れ歯です
- ルミナス — 「日英語義比較」の表に8個の訳
- ウィズダム — 「表現」欄囲みの中で,4種類7個の訳と14の例
- ロングマン — 特別な記述はない
6 head と face
「バスの窓から顔を出す」は put his head out of the window of the bus となります。ここでは face ではなく, head と言わなければなりません。
- ジーニアス — head 「比較」欄囲みの中で,「head は日本語の『首』『顔』に当たることが多い」として,例を6個挙げている
- ルミナス — head 「日英比較」欄囲みの中で,「 head は首(neck)から上の部分をさす;(…) 従って次のような文では head に当たることばが日本語では『顔』や『首』になることが多い」として,3つの例文を挙げている
- ウィズダム — head 「表現」欄囲みの中で,とくに言葉での説明はないが例として, turn one’s head away 「顔をそむける」など,「顔」「首」が head になる表現を7個挙げている。
- ロングマン — 特別な記述はないが,head を使った例文の中で,「顔」「首」などと訳し分けている。
7 goat (ヤギ) の文化的・象徴的意味
「羊のようにおとなしい」とか「狐のように狡猾な」とか,動物などは文化によって異なる象徴的な意味合いを持つ場合があります。
- ジーニアス — 語意欄に「早熟で,好色・淫乱の象徴。また悪魔が goat の姿をとるといわれる」とある。
- ルミナス — 象徴性についての記述はないが,goat の意味の一つとして「好色漢」を挙げている(この意味は他の辞書にも記載)
- ウィズダム — 「事情」欄囲みの中で,「ヤギは早熟で繁殖力が強いので『好色』のイメージがある。古代ユダヤ人の儀式では人間の罪を背負って野に放たれたことや,ヤギの持つ破壊的性質などから,キリスト教では悪魔と関連付けられ,ヒツジと対比される。」と記述
- ロングマン — 特になし
8 アメリカやイギリスの休日はどんなものがあるか
雑学のたぐいですが,小説や新聞・雑誌の中には出てくるものですから,まとめておいてくれると便利です。
- ジーニアス — holiday の「関連」欄囲みの中で,アメリカ,イギリス,オーストラリアの祝日,および日本の祝日の英語名を記載
- ルミナス — 囲みの中で,米英の法定祝日を囲みに記載
- ウィズダム — holiday の「事情」欄囲みの中で米英の法定祝日を囲みに記載
- ロングマン — 特になし。「文化」欄に有給休暇の制度の説明がある
9 アメリカ人に多い名字はどんな名字か
これも雑学。これはなくても困らない豆知識です。
- ジーニアス — 発見できず
- ルミナス — name の項に「米国で最も多い姓10」の囲み。ちなみに, Smith, Johnson, Williams, Brown, Jones, Miller, Davis, Wilson, Anderson, Taylor の順。
- ウィズダム — 発見できず。「事情」欄には,ミドルネームやニックネームの説明。
- ロングマン — 発見できず
10 完了不定詞とは何か
純然たる文法プロパーの説明があるか,という問題です。
- ジーニアス — 発見できず
- ルミナス — to の項の「文法」囲みで詳しく記載されている
- ウィズダム — 発見できず
- ロングマン — 発見できず
11 副詞節の if 節で未来のことに will を用いるのはどのような場合か
時や条件の副詞節の中では,未来のことでも will が使えず,現在形を用いなければなりません。しかし will が全く使えないというわけでもありません。
- ジーニアス — a) 「動作主の主語の意志・習慣または相手に対する丁寧な依頼を表す場合」 b) 「if 節が主節の動作の結果を表す場合」 I will come if it will be of any use to you. c) 「『前もって』『あらかじめ』の意が含まれる場合」 If I will be late, I’ll call you. の3つを挙げている
- ルミナス — 語法欄囲みの中にはないが,語意9として,「[if … will[would] — の形で主語の意志を表して] 《格式》 — してくださるなら,— するつもりなら」を載せ,3個の例文をつけている (ジーニアスの a に対応)
- ウィズダム — (b) 「if 節の内容が主節に対する結果を表すときには, will が用いられる」 I’ll do it, if it will save Lisa. (ジーニアスの b に対応)と (c) 「主語の意志を表す will や丁寧表現に用いられる will [《より丁寧に》 would ]は可」(ジーニアスの a に対応)という二つの場合を挙げている
- ロングマン — 発見できず
ちょっと冗談っぽく勝者を決めれば,
- ジーニアス
- ウィズダム
- ウィズダム
- ルミナス
- ロングマン以外同点
- ジーニアス,ルミナスが同点。ウィズダムも僅差
- ウィズダム
- ジーニアス
- ルミナス
- ルミナス
- ジーニアス(説明の仕方はウィズダムの方がわかりやすい)
というところでしょうか。こういう項目は蓄積がものを言うので,後発のロングマンは不利でした。ロングマンは日本語訳の訳語選定や日本で行われている伝統文法とは違う切り口の書き方をしているなど,筋のいい新入り(上から目線ですみません)なので,今後に期待したいところです。
12回にわたって比較を行ってきました。個々の項目に点数をつけて,最終的なおすすめの辞書を選ぶことも不可能ではありません。稿を改めてまとめ的なことを書いてみようと思っています。
ただ,各辞書の総合点は,今のあなたの実力や,どういうポイントを重視するかで「重み」が変わってくるのでいちがいに「これがオススメ」とは言いにくいことは確かです。
間違いなく言えるのは,英語を専門にしている人なら辞書は複数持つべきだということでしょう。
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