「ジーニアス」「ルミナス」「ウィズダム」「ロングマン」の4英和辞典の比較のシリーズ第11弾!
軽い気持ちで始めたこのシリーズも,10回を超える企画になってしまいました。そろそろ締めなければ。
というわけで,今回は各辞書のウリにもなっている囲み記事を取り上げてみます。辞書の中あちこちにポイントを特集して,枠で囲って目立たせている部分です。すでに,「語法」や「類語」情報については取り上げたので,それ以外のフィーチャーを扱ってみましょう。辞書によって切り取る角度や視点が違っていますから,特定の項目の比較があまり成り立ちません。単につまみ食いして,感覚的につかむだけにします。それにしても,どれもなかなかつまみ食いしがいのある興味深いものが多いですよ。
ジーニアス
「語法」の充実に比べるとその他の追加情報は抑えめ。「語法」以外では「関連」が多い。次は「事情」か。その他は少ない。
● 文化 — 英米文化の豆知識
例) party
● 事情 — 政治・社会関係の雑学
例) taxi
● 関連 — 「見出し語」に言葉の面で関連した情報
例) wedding
【結婚記念日】 paper ~ 1周年 / straw ~ 2周年 / candy ~ 3周年 / leather ~ 4周年 / wooden ~ 5周年 / floral ~ 7周年 / tin ~ 10周年 / linen ~ 12周年 / crystal ~ 15周年 / china ~ 20周年 / silver ~ 25周年 / pearl ~ 30周年 / coral ~ 35周年 / emerald ~ 40周年 / ruby ~ 45周年 / golden ~ 50周年 / diamond ~ 60[75]周年
どれも豆知識的な情報で,どの辞書も似たようなコーナーを持っています。辞書によって取り上げるものの差はありますが,といって優劣はあまりないような気がします。
● 表現 — 「見出し語」を使う状況におけるコミュニケーション上の表現例
例) invite
ルミナスの「会話」,ウィズダムの「コミュニケーション」にあたるものですが,それらとはちがっていわゆる「日常会話」の典型例を取り上げている部分は少なめです。冒頭でも述べたように,英和辞書で会話の典型例がどこまで扱えるかは疑問ですが。
● 文法 — 見出し語に関連する文法事項
例) find
[目的語繰り上げ構文]
1. 目的語繰り上げ構文
(1) I found that John was boring.
(2) I found John to be boring.
(1) の John は従節である that 節の主語である。しかし同じような意味の (2) では John は主節の目的語に繰り上がっている。(2) のような構文を「目的語繰り上げ構文」(object-raising construction) と呼ぶ。
このあとには,かなり高級な議論がつづきます。「ジーニアス」は難しすぎるという意見もあるようなのですが,この部分(個々の引用部分のつづき。長いのでカットしました)は確かに初学者には難解すぎます。ただし,扱っているポイント自体は特殊なものではなく,従来から取り上げられてきたポイントです。「目的語繰り上げ構文」というネーミングも,他に初学者向けの便利な名前をでっちあげるわけにもいかず,いたしかたないところだと思います。内容は面白いんですけどね。
ルミナス
他にはあまり見られないのが,「リスニング」と「文法」です。
● リスニング — 見出し語に関する音声学的知識
例) can’t
《米》では can は文中では普通弱く /kən/ と発音され,逆にその否定形 can’t は比較的強く /kænt/ と発音されるが,この語末の /t/ はしばしば聞こえないことがある。そのため耳で聞く際には I can /kən/ help you. 「アイカヌヘウピュー」, I can’t /kænt/ help you. 「アイキャヌヘウピュー」のように can の母音がよわい /ə/ か強い /æ/ かが肯定か否定かを判断する決め手となることが多い。
こういう大事なことが,従来の辞書では軽んじられていましたから,この項目はいいと思います。「リスニング」欄全体は少し重複が多いのですが,でも歓迎したいと思います。今までなかったのが不思議。
● 文法 — 基礎文法事項の説明,というより,文法用語の説明か。
例) 文の要素
文を組み立てている基本的な要素で,主語・述語動詞・目的語・補語・修飾語句をいう。文の要素のうち,修飾語句以外のものは文の骨組みになり,文の主要素と呼ばれることがある。文の主要素の構成のしかたによって文を分類すると5つの型に分けられる。
ルミナスの「文法」欄は,全部集めれば一応体系的な文法用語集になっているのが特徴です。ジーニアスの「文法」は見出し語に関する文法項目ですから,体系性を志向してはいません。初版では巻末にあったものを,見出し語の中にちりばめた形になっています。巻末でよかったのでは,という気もしますが。
辞書の中では,文法用語を使って説明する以上,こういう欄があってもいいと思います。ただ,全体としては説明が硬すぎるきらいはあります。これだけ読んで,英語が苦手な高校生にわかるかなあ。
● 単語の記憶 — 語源からの単語の関連付け
例) cure
«CUR» (注意)
cure (世話をする) –> 治療する
curious (注意を向ける) –> 好奇心の強い
accurate (注意が払われた) –> 正確な
manicure (手の世話) –> つめの手入れ
procure (…の世話をする) –> 手に入れる
secure (心配のない) –> 安全な
これも他の辞書には見当たりません。最近の辞書はどれも語源的説明を重視しない傾向があります。そういう情報は大辞典や英米のネイティブ向け辞書には載っているわけで,必要ならそちらに当たればいいし,語源が威力を発揮する場合は限られているので,その方針は十分理解できます。そしてその限られた場合をこの欄が受け持っているということなのでしょう。
● 日英語義比較 — 誤解されやすい語義のズレ
例) ashamed
ashamed (よくない事をして恥じている) | 恥ずかしい |
embarrassed (きまりが悪い) | |
shy (引っ込み思案ではにかんだ) |
「恥ずかしい」は 「悪いことをしました,恥じています」という ashamed より,embarrassed の方ががぴったりすることが多いのですが,そういう微妙なずれを図表化して取り上げている欄です。説明が少ないのでちょっとわかりにくくなっているところもあります。それにこの場合であれば,「恥ずかしい」を左列に,英語を右列に配置した方がいいと思うのですが。
● 日英比較
sauce
普通はトマト・肉汁・はっかの葉などのいずれか,またはその混合物をクリーム状にしたもので肉・魚料理などにかけて食べる。日本でいう液状の「ソース」は普通は Worcestershire sauce のこと。
こちらはニュアンスの違いというよりも,外来語と元の英語の中身の違いですね。
● コロケーション — コロケーションとは,その語と他の語の結びつきやすさ,セットで使うことの多い表現です
例) egg
beat [whisk] an egg 卵をかきまぜる[泡立てる]
boil an egg (hard [soft]) 卵を(固く[半熟に])ゆでる
break [crack] an egg 卵を割る
sit on [hatch] an egg (動物が)卵を抱く[かえす]
ウィズダムではこれをコーパスからそのまま出していますが,こちらの方が整理されている印象があります。もちろん本格的なコロケーション情報は「英和活用大辞典」などに頼るしかないのですが,中辞典にあって悪いわけはないですね。
● (自)(他) の転換 — 自動詞・他動詞両方で用いる動詞
例) open
(他) 1 あける (to make (something) open)
(自) 1 開く (to become open)
この欄の意義がわたしにはイマイチよくわからないのですが。
● ~のいろいろ
例) television
television のいろいろ cable television ケーブルテレビ / high-definition television ハイビジョン / pay television 有料テレビ / satellite television 衛星テレビ
● コーパスキーワード
例) go doing (1) のいろいろ
go boating ボートこぎに行く / go climbing 登山に行く / go hiking ハイキングに行く / go hunting 狩猟に行く / go jogging ジョギングに行く / go sailing ヨット乗りに行く / go shopping 買い物に行く / go skiing スキーに行く
● 関連表現
例) money
be broke 《略式》一文無しである
be hard up 《略式》金がなくて困っている
break a ten-thousand-yen bill [《英》 note] 一万円札をくずす
change Japanese yen into US dollars 日本円をドルに替える
deposit money in a bank 金を銀行に預ける
have no money with [on] one 金の持ち合わせがない
Money talks. 金が物を言う
open a bank account 銀行口座を設ける
このへんは,他の辞書にもありますね。
● 構文
例) 動詞+人+ from doing をとる動詞
[例] Business prevented me form attending the meeting. 用事で私はその会に出られなかった。
ban 禁止する / deter やめさせる / discourage 思いとどまらせる / inhibit 禁じる / keep させない / prohibit 禁じる / stop やせさせる
もっと載せていいと思うのですが,あんがい少ないです。
● 会話
例) Excuse me?
“Would you like some coffee?” “E~ me?” “I said, ‘Would you like some coffee?'” “Oh, thank you. Yes, please.” 「コーヒーはいかがですか」「すみません,何とおっしゃったのですか」「『コーヒーはいかがですか』と申したのです」「どうも。はい,いただきます」
ルミナスにはこれ以外にも,特に名前のついていない欄が数多くあります。図表も充実しています。crossword puzzle の項目には,ほんとにパズルが載っています(解答も)。
ウィズダム
切り取る視点はそれほどユニークなものはありませんが,ひとつひとつの記事は面白いと思います。コーパスが他よりも強調されている感じです。
● コーパス頻度ランク — つながりやすい語句をコーパスから引っ張ってきたもの
例) that
同格の that 節をとる[名]
- fact
- idea
- hope
- evidence
- sense
コーパスには大量のデータがあったでしょうに,これだとなんかちょっとさびしい気がしますが,スペース的にはこれでイッパイイッパイなんでしょうね。
● コーパスの窓
例) ever
過去の経験を問う疑問文
ever を伴って過去の経験・事例を問う場合,7割は完了形を用いる形が占めるが,《米》や《英・くだけて》では Did you ever …? のような過去形も用いられる。また Did you ever play sports when you were a kid? (子供の時スポーツをしたことがありますか)のように過去を示す表現が伴う時は過去形を用いる。また,過去形の場合,反語的な意味で用いられることもある。▶ Did I ever steal your money? 君のお金を盗んだことなんて,今まであったかい(!「なかった」ということを含意)
「7割」というデータの正確さはともかく,コーパスもこれくらいまとめてくれないと,生のデータだけではあまり使えませんね,われわれには。こういうのを増やしてもらいたいもんです。
● 表現
例) taste
(1) ・・・な味がする ▶ ~ hot 辛い / ~ bitter 苦い / ~ sweet 甘い / ~ sour すっぱい / ~ salty しょっぱい / ~ good うまい / ~ terrible まずい
(2) 味が・・・ ▶ How does it ~? ≒ What does it ~ like? どんな味がしますか(! 前者は辛い・甘いなど,後者は肉・魚など具体的なものの味を聞く表現)
● 関連
例) number
数学上の数
▶ a cardinal [ordinal] ~ 基[序]数 / a counting [natural] ~ 自然数 / a half ~ 0.5を伴った整数《0.5, 1.5, 2.5 など》 / an integral [a whole] ~ 整数 / an inverse ~ 逆数 / a prime ~ 素数 / an even [odd] 偶(奇)数 / a rational [an irrational] ~ 有理[無理]数 / a real [an imaginary] ~ 実[虚]数 / a round ~ 概数,丸めた数字
● 事情
例) rainbow
7色は外から順に red, orange, yellow, green, blue, indigo, violet で, indigo を除いて6色とすることもある。頭文字をとって Richard of York gained battles in vain. のように覚えることがある。
● 語源
例) September
September, October, November, December はラテン語の数詞にちなんで名づけられ,旧ローマ暦(ロムルス暦)では7 ~ 10月を表した。当時の暦では,1年は10か月のみで,冬期には月名が与えられていなかった。ヌマ暦で,空白の11月に January, 12月に February が付け加えられ,その後両月が1月,2月へそれぞれ移動し,各月が2か月後ろへずれることになり,September は9月になった。
このあたりは,他の辞書と似ています。「語源」も語源的雑学情報といったかんじ。
● 読解のポイント
例) therefore
結果・結論の表現
「原因⇒結果」「前提⇒結論」の後半部分の導入に用いられる。文章全体の結論が述べられる場合もあるし,例や説明の中での結論や結果が述べられるにすぎない場合もある。同様の機能を持つ表現には,then, as a result, consequently, as a consequence, this is why, thus, so, so that … などがある ▶ Every integer is either even or odd. Therefore, what is not odd is even. すべての整数は偶数か奇数である。よって,奇数でないものは偶数である。(! 第1文が前提,Therefore 以下でその結論が述べられている) 以下例文 略
therefore や but といったつなぎことば(discourse markers) に付随している欄です。重要ではありますが,もう少し工夫が欲しいところ。数も少ないです。
● 作文のポイント
例) convenient
都合のいい時に電話をください
× Please call me when you are convenient.
Please call me when it is convenient for you.
! convenient は人を主語にしない
これは,語法欄と区別しにくいですね。語法欄に組み込んでもいいかもしれません。
● コミュニケーション
例) ready
A: Are you ready to order?
ご注文はお決まりですか。
B: Just a minute. We’re almost [(just) about] ready.
もうちょっと待って。もうだいたいは決まったから。
会話表現。どうせならもっと増やした方がいいかも。
ロングマン
● ! — 日本人が間違えやすいポイント
例) nor
「両方とも・・・ない」の意味で not とともに nor を用いることは不可。 not … or または neither … nor を用いる。後者はよりフォーマル。
× I can’t dance nor sing.
○ I can’t dance or sing.
× I can neither dance nor sing.
びっくりマークは,他の辞書の「語法」欄に相当するようです。他の3辞書と比較すると語法面はロングマンの弱点でしょう。今後ここをどれだけ充実させるのか,それとも他の辞書と一線を画するインパクトのある企画が打ち出せるのか。まあそれは次バージョンのはなしですが。
● 文化
例) cat
猫は危険な状況でも無傷で逃れ,生き延びそうに見えるところから, A cat has nine lives. (猫に九生あり)と言われることがある。米国では黒猫が前を横切ると不吉だと信じられているが,英国では逆に幸運だと思う人もいる。
● 語源
例) economy
economy はギリシャ語の oikonomia (「家事をこなすこと」の意)が語源とされる。15世紀より用いられるようになった。
これらは他の辞書と同様の項目です。
● 訳 — 英訳・和訳しにくいもの,注意点
例) movie
(1) 「映画を見る」という意味では通例 watch を用いるが,「・・・という映画を見たことがある」という経験を表す場合は see を用いる: I like watching (× seeing) movies. 映画を見るのが好きだ | It’s the best movie I’ve ever seen. 今まで見た中で最高の映画だ。
(2) 「ビデオで映画を見る」は watch a video を用いる: I would rather watch videos (× video movies) at home than go to the movies. 映画はわざわざ映画館へ行くよりも自宅でビデオを見る方が好きだ。
ジーニアスでは, テレビやビデオを movie を見る場合は watch,映画館で見るのは see となっています(ウィズダムも同様)。ロングマンは,LDOCE を出発点としているだけに,他の辞書とは少し切り口が違う時があっておもしろいですね。
● コロケーション・グリッド
例) rich
RICH | wealthy | be well-off/comfortably off | well-to-do | affluent | prosperous | |
person | 裕福な人 | 裕福な人 | 金に不自由していない人 | 富裕階級の人 | ||
family | 裕福な家族 | 裕福な家族 | 金に不自由していない家族 | 富裕階級の家族 | 経済的に豊かな家族 | 経済的に成功している家族 |
area | 裕福な地域 | 裕福な地域 | 富裕階級が暮らす地域 | 豊かな地域 | 繁栄している地域 | |
country | 裕福な国 | 裕福な国 | 豊かな国 | 繁栄している国 |
この表からは,たとえば rich と wealthy は意味も用法もたいして変わらない, well-off は国や地域に,well-to-do は国に,affluent と prosperous は人には使われることはまれ,ということがわかります。これもロングマン独自のもの。イギリスの本にはこの種の表を見かけることがあります。でも,ロングマンに載っているこのグリッドはそれほど多くありませんが。
● コミュニケーションガイド
辞書の中央にある,付録みたいなものです。「Oral Communication」(24ページ),「エッセイ・ボキャブラリー」(20ページ),「接続語句」(6ページ)の3本立てです。
「Oral」は冒頭で書いたシチュエーション別の会話表現集,「エッセイ・ボキャ」はテーマ別の語彙,「接続語句」はつなぎ言葉(discourse markers)です。狙いはいいと思いますが,網羅的にやろうとすればこれだけで別の1冊の辞書になってしまいます。あわせて50ページだとちょっと食い足りない気がしますが。
なんか今回は注文が多くなってしまいました。あしからず。
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