「ジーニアス」「ルミナス」「ウィズダム」「ロングマン」の4英和辞典の比較のシリーズ第8弾!
現在の学習用英和辞典には,さまざまな「囲み記事」「コラム」的な追加情報が載せられています。既に取り上げた語法以外にも,「文化」に関する情報であったり,会話上の注意事項であったり,各社がそれぞれ工夫を凝らした「囲み記事」を掲載し,これがあるためにかつての小さな文字の羅列という印象が薄れ,辞書自体がちょっと楽しいカタログ的読み物になっています。今回はその中から「類語」の比較を取り上げます。「傷つける」という意味を持つ injure と wound と hurt はどこが違うのか,というようなポイントですね。
まず,類義語としてどんな単語を選ぶのか,という問題があります。
各辞書の A のページから「類義語」の囲み記事になっているものをピックアップしてみました。ただし,ルミナスは囲み記事になっておらず,解説の末尾に小さめの活字で類義語が説明されています。(そのため見落としがあるかもしれません。)
ジーニアス は, ability, capacity, talent, gift / act, action / admittance, admission / almost, nearly / alone, lonely / area, region, district, zone / ashamed, embarrassed, shy / attempt, try / authentic, genuine の9項目
ルミナス は, ability, faculty, capacity, talent, capability / about, almost, nearly / accept, receive / accompany, attend / achieve, accomplish, attain / acknowledge, admit, confess / act, action, behavior, conduct / advice, counsel, recommendation / angry, furious, mad, indignant / answer, reply, respond / anxious, concerned, nervous / appointment, engagement, date / argument, dispute, debate, discussion, controversy / arms, weapon / arrive, reach, get to / aware, conscious の16項目
ウィズダム は, ability, capability, capacity, skill, talent, gift / about, on, of, over / above, over / achieve, accomplish / across, over, through / action, act, deed, behavior, conduct / after, later, in, from now / ago, before, earlier / alive, living / allow, let, permit / almost, nearly / among, between, amid / anger, rage, fury, wrath / anyway, anyhow / apt, likely, liable / area, region, district, zone / at, in / aware, conscious の18項目
ロングマン は, about, on, concerning, regarding / accident, event, incident / act, action, behavior, conduct, deed / allow, permit, let / area, region, district, zone の5項目
「ジーニアス」「ロングマン」に比べ,「ルミナス」「ウィズダム」は多めです。しかし,実際探してみて気づいたのですが,たとえば alive と living のように意味よりも語法上の違いが大きいものは,「類語比較」の項目ではなく,「語法」囲みに載っている場合があります。また,囲みにせず,本文中に記載してある場合(特に前置詞)もあります。そしてもちろん,area と region の違いを area の項目ではなく region の項目で説明していることもあります。ここでの多い少ないはあくまでも A のページに載っていたのはたまたまこれらだったというにすぎません。
4つの辞典で共通していた area を取り上げてみます。
ジーニアス
【類語比較】 [area, region, district, zone] area は「地域」を表す最も一般的な語。region は地理的・文化的・社会的特徴によって区分された地域を表す。district は region と同じように使うこともあるが,行政上の区域についてはもっぱらこの語を用いる。zone は特別な現象の生じる地帯や特別な用途・目的のための地域を表す: Major industrial areas [districts, regions, zones ] of Japan are in Tokyo, Osaka and Nagoya. / Each election district [×area, ×region, ×zone] elects one member. / Los Angeles is in an earthquake zone [ area, ×district, ×region].
ルミナス (region の項)
【類義語】 region かなりの広さを持つ地域で,何か他と区別する特徴を持つ地域を意味する: a wooded region 森林地帯 district region よりも小さく,明確な行政区画,あるいは地域の特徴などによって明らかに区画されている地方などに用いる: an electoral district 選挙区 area 広い狭いには関係なくある region や district をいくつかに区分した場合の1つの地域: a cultivated area 耕作地域 quarter 都市の区分で,同じ種類のものが集まっている地域: the Chinese quarter 中国人居住地域 zone 用途・生産物・生息している動物,繁茂している植物などで分けた地域: a demilitarized zone 非武装地帯
ウィズダム
【類義】 [コーパス] area と region, district, zone など
area は面積の大小を問わず,一般的に地域を表す語で,明確な境界線は持たない。 region は邦楽や地名をしばしば伴い,地理的特徴などが他とは区別される広い地域をさす。 district は region よりは狭い地域をさし,school, business, financial といった目的を示す語をしばしば伴う。 zone は time zone (時間帯)のようなある基準で指定された地域や,war, parking などの特定の行動を行う区域をさす。 country は farming, rugby, wine といった特別な活動や物で知られる地域のこと。
ロングマン
【類語】 area は広さに関係なく,ある特定の地域を漠然とさす : mountainous areas 山岳地帯
region は主に地理的なかなり広い地域をいう : the northwest region of Russia ロシアの北西地域
district は国や都市の行政上の区域や特定の「地区」をいうことが多い : the shopping district 商店街
zone はある目的などのために指定された「区域」や気温などで分けられた「地帯」をいう : a no-parking zone 駐車禁止区域
どうでしょうか。たとえば zone の説明だけを比較すると,違いがわかりやすくなるかもしれません。
説明の仕方や用例の挙げ方にいくらか個性が見られます。「ジーニアス」は説明が少し抽象的で分かりにくいのですが,ほかには見られない用例の × 印があって,それでいくらか救われています。(余談ですが,ジーニアスはこの× 印を多用していて,日本人にはいいのですが,ネイティブには批判的な人もいるようです。)
「ルミナス」は「ジーニアス」よりは具体的な説明になっています。region と district を「広い」⇔「狭い」としているのは「ウィズダム」も同じです。意味だけで説明するとすればこの辺が妥当なのかもしれません。
「ウィズダム」は用例を入れない代わりに,修飾語を列挙するという形で説明しています。これが案外わかりやすいかも。
「ロングマン」はいちばん短い説明で,その分いちばんわかりやすいですね。「地区」,「区域,地帯」などの対応語の記述はロングマンだけです。もちろん短い説明は,切り捨てているものも多いわけですから危険と言えば危険なのですが,学習英和である以上,こういう切り捨て方もアリだとは思います。
ところで,「ウィズダム」「ロングマン」の記述を読んだ後で,「ジーニアス」の記述を読み直すと,案外すんなりと読めてきます。一つの視点からだけではなく,いろんな視点からの説明によって全体像がはっきりしてきます。よく,辞書は何がいいのか,「ジーニアス」の時代は終わったとか,いやまだまだだとかいう議論が聞こえてきますが,辞書は一つより二つ,二つより....だと思いますよ。「話せればいい」「読めればいい」という考えなら話は別ですが,外国語に対して,単なる道具以上の興味を持っているのであれば複数の辞書は必要でしょう。もちろん,特に電子辞書などという高価なものも使うとなれば,財布との相談になるわけですが...
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