「年はとっているが高名な科学者が,しかじかのことはある得ることだと述べる場合,彼はほぼ確実に正しい。しかし,そんなことはあり得ないと言う場合には,おそらく彼は間違っている。」 (アーサー C. クラーク)
- elderly 「お年寄りの」 old の婉曲語
- distinguished 「すぐれた,著名な」
年をとるとともに,人は知識と経験と自信とを積み上げていく(ものだと思われている)。そのうちの幸運な人は,さらに評判・名声・信頼,場合によっては財産も獲得できる。そうやって達人やら名人やら師匠やら権威やら,つまり成功者として自らを確立できるわけだ。しかしそのように得た成功報酬は,同時に彼にとっての限界となる。守らねばならない壁であり,自らを閉じ込める牢獄である。だから,それを打ち壊しにかかっていると彼(または彼女)が考えるものに対しては,本能的に反応する。「そんなことはありえない。」
もちろん,ものわかりがいい権威というものも,あまりありがたくはない。若者にとっては,いどみかかる壁は高い方がいい。「そんなことはありえない」と言われて,すぐにかしこまってしまうような主張ならば,それはやはり「ありえない」のだ。壁は,人間がこれまでに積み上げてきた知識や経験の総体なのだから,かんたんに壊れてしまっても困る。壁が壊れれば,その壁の中で暮らしている人類全体のダメージがあるかもしれないのだ。
問題は,権威には常に権力がつきものであるということかもしれない。といって,権力を持たない権威というものも存在しないのだが。