2008年春の時点で,辞書をちょっと比較してみよう,というのがこの企画です。
日本の英語辞典,つまり英和辞典は世界に類をみないほど進歩を遂げています。辞書が単に語義を説明するものにすぎないと考えれば,ネイティヴの辞書でかまわないわけですが,英語を外国語・第二言語として学ぶという観点に立てば,日本の学習用英和辞典は世界に誇れるものです。特に,語法や後の使い分けなどの情報の詳しさ,説明の懇切丁寧さとここ十数年での進歩は目を見張るものがあります。(これほどの辞書を持ちながら,日本人の英語力はちっとも進歩しないということは別途論じる必要がありそうですが。)
辞書を比較すると言うと,あれよりこれが優れているとか,こっちを買うべきだとか,を論じたがる人も多いのですが,ここではそういう切り口で語ろうとは思いません。間違いを探してあれこれ言う趣味もありません。それぞれに個性がありますから,それを楽しもうという趣旨です。たいていの場合,ある点では辞書Aが,別の点では辞書Bが優れているということが起こります。間違いも見つかれば結構楽しめるものです。
もっとも,紙の辞書としては依然として「ジーニアス」優勢であり,電子辞書にいたっては「ジーニアス」独り勝ち状態ですから,こういう取り上げ方をすれば「ジーニアス」以外の辞書へのエールになるかもしれません。
ここで取り上げるのは,大学受験(高校上級)~一般向けの学習用英和辞典です。ランクとしては大英和辞典の次に位置するレベルの辞書で,各社の主力商品になります。
- 大修館書店 ジーニアス英和辞典
- 研究社 ルミナス英和辞典 第2版 (函入り)
- 三省堂 ウィズダム英和辞典
- 桐原書店 ロングマン英和辞典
の4つに絞りました。研究社には上記「ルミナス」以外にも「ライトハウス英和辞典」があり,学研「アンカー・コズミカ」,小学館「プログレッシブ」,旺文社「レクシス」,東京書籍「アドバンスト・フェイバリット」など個性あふれる面々が控えているのですが,全部フォローするわけにもいかず,とりあえずこの4冊に限ることにします。ごめんなさい。
基礎データ
版 | 編者 | 発行日 | 収録語数 | ページ数 | 税込価格 | ホームページ | |
ジーニアス英和辞典 | 第4版 | 主幹 小西友七・南出康世 | 2006/12/20 | 9万6000 | 2249 | ¥3,465 | 大修館 |
ルミナス英和辞典 | 第2版 | 竹林滋・小島義郎・東信行・赤須薫 | 2005/10/1 | 10万 | 2152 | ¥3,360 | 研究社 |
ウィズダム英和辞典 | 第2版 | 井上永幸・赤野一郎 | 2007/1/10 | 9万 | 2125 | ¥3,465 | 三省堂 |
ロングマン英和辞典 | 第1版 | 監修 Geoffrey Leech・池上嘉彦・上田明子・長尾真・山田進 | 2007/2/1 | 10万2000 | 2040 | ¥3,465 | 桐原書店 |
値段は,「並装」のもの。
各社の英和辞典ラインナップ
大修館
ペーシック・ジーニアス < プラクティカル・ジーニアス < ジーニアス < ジーニアス大英和
大修館は「ジーニアス」の下位バージョンとしてかつて,「ヤング・ジーニアス」,「フレッシュ・ジーニアス」,「アクティブ・ジーニアス」 というラインナップを持っていたが,これらを整理して改名したのが現行ラインナップ。すべて小西友七(故人)を中心とする編纂者。
研究社
ライトハウス < ルミナス < 新英和大辞典
すべて竹林滋を中心とする編纂者。これ以外の学習英和として,歴史のある「新英和中辞典」を持つが,ラインナップの中での位置づけがよくわからない。
三省堂
ヴィスタ < グランドセンチュリー < ウィズダム < グランドコンサイス
編纂者はバラバラ。
桐原書店
ロングマン英和辞典は,桐原書店唯一の英和辞典。同社で出している「Longman 現代英英辞典」を参考にしつつもゼロから作り上げた。
各辞典の特徴をひとことで
- 「ジーニアス」 従来から「語法のジーニアス」と言われているように,語法説明が詳しい
- 「ルミナス」 「語法」だけでなく,「文法解説」「リスニング」(上のポイント)「日英語義比較」「語形成」「構文」などの多くの囲み記事を持つ
- 「ウィズダム」 見やすさ,引きやすさ。辞書作成のために使われたコーパスがwebで利用できる特典。
- 「ロングマン」 英語コーパスだけでなく,日本語コーパスを使った,一工夫ある訳語選定
見た目の印象
ほんとは,画像を公開したいのですが,まあ大人の事情ということで。
研究社さん,見本くらいサイトに載せてください。
「ロングマン」がカラフルで,生徒には受けるかもしれませんが,慣れてくるとちょっとうるさいかも。逆に「ジーニアス」は品詞マークに赤を使っているくらいで,全般的に地味め。
- 「ジーニアス」は見出し語は黒太字,重要見出し語は黒大活字,メインの訳語を黒太字,それ以外を標準字体
例) distinct (1) [・・・と]まったく異なった,別個の(different)[from]; 独特な - 「ルミナス」は見出し語は黒太字,重要見出し語は赤大活字,メインの訳語を黒太字,それ以外を標準字体
例) distinct 1 別の,違った,異なった - 「ウィズダム」は見出し語は黒太字,重要見出し語は黒大活字,メインの訳語を赤太字,それ以外を太字,かっこの中や例文を標準字体
例) distinct 1 別個の,独特な;《・・・と》まったく異なった « from » - 「ロングマン」は見出し語は青字,重要見出し語は赤字,メインの訳語を赤太字,それ以外を標準字体
例) distinct 1 《フォーマル》別個の,別々の,別種の [+from]
「辞書を引く」,つまり見出し語に対応する訳語を探す面からすると,「ウィズダム」がいちばん読みやすく感じるでしょう。「辞書は読むもの」と考えるなら,どれでも大差ありませんが。
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