ここで取り上げるのは学習用英英辞典です。これらは,英語を外国語として学ぶ学習者(つまり,私たち)が使う目的で作られた辞書で,ネイティヴが使っている辞書とは,説明語彙,語意説明の仕方,語法や文法の解説,収録語数の面で大きく違っています。
学習用英英辞典とは
英英辞典を使ってもその説明に出てくる単語がわからない。じゃあその解説の単語を引いてみると,その説明の単語もわからない....というのが昔の英英辞典に頻繁につけられたクレームでした。この弱点を解決すべく取られた方策は,(1) 説明の中に日本語を混ぜる(英英和辞典方式) (2) 説明に出てくる英単語を簡単なものに限る(定義語制限方式) というものでした。(1)の方式の辞書は,最初に出たのは私が受験生の頃にはあったと記憶していますからかなり古い歴史がありますが,今でも少数ながら存在しています。しかしあまり成功したとは言えません。日本語を混ぜるくらいならそもそも英英を引く意味がなくなってしまいますし,何といっても(2)が成功したので存在感自体が薄まってしまったのです。現在日本で使われている学習用英英はみな定義語制限方式を採用しています。
英英辞典の選び方
メジャーな学習用英英は次の3冊です。
Longman Dictionary of Contemporary English
(日本では「ロングマン現代英英辞典」として発売: 桐原書店) 4訂増補版
通称は LDOCE(またはLDCE)。定義語制限方式を最初に導入して学習英英辞典の革命を引き起こしたのはこの辞書。なお Longman というのは出版社名。
Oxford Advanced Learner’s Dictionary
(日本では「オックスフォード現代英英辞典」として発売) 第7版
通称はOALD。戦前の日本で教えた Horny が日本での教授経験を踏まえて作り,1942年日本の開拓社で発売。その後 Oxford が受け継いだ。世界最初の non-native向けの学習用英英辞典といってよい。一時期 LDOCE に抜かれたこともあるが,今は並んでいる。
Collins COBUILD Advanced Learner’s English Dictionary
(日本では「Collins コウビルド英英辞典」として発売)改訂第5版
通称はCOBUILD。このCOBUILDとは,Collins 社と Birmingham 大学が共同して作った, Collins Birmingham University International Language Databaseに由来する。コーパスを導入して作られた辞書の草分け的存在。語意説明が独特で,たとえば develop という単語を引けば,ふつうは “to grow or change into something bigger , stronger, or more advanced” (これはLDOCEの説明)のような「言い換え」説明であるのに対し,COBUILD では,”When something develops, it grows or changes over a period of time and usually becomes more advanced, complete, or severe.” という具合に,その語を文で説明するという特徴を持っている。この方式は現在では,部分的に LDOCE にも OALD にも取り入れられている。
3冊のうちのどれを選ぶかは好みによるとしか言えませんが,COBUILD的な説明方式が気に入るかどうか,もう一つは定義語の数も選択の参考になります。定義語(definition words, defining vocabulary),つまり説明に使われている単語数は,
LDOCE が 2000 語
COBUILD が 2500 語
OALD が 3000 語
です。定義語が多いということは,より説明が詳しく書けるという長所を持っていると同時に,またその分すでに知っている前提になっている語が多いということです。したがって,LDOCE の方が OALD よりも初心者向きということになります。
なお,これら3冊ともイギリスで出版されていますが,アメリカ英語にも十分使えます。Longman はアメリカ英語辞典も出していますが,学習用にはこの3冊で十分です。