英文を正確に読むために必要な,あるいは「英文法」の授業や参考書があたりまえの前提としている最低限必要な文法とはどのようなものでしょうか。
ふつう,文法の参考書や解説書は個々の品詞を順番に取り上げて,英文法全体を組み立てていくという方式をとっています。文法の個々の項目を詳しく調べていくにはこの方式が適しているのは間違いありません。しかし,この方式だと全体像が得られるまで順に文法書の叙述をたどらなければならず,習得までにかなりの忍耐と時間が必要になります。
ここでは,まず英文法をまず上から眺めて,その全体像をとらえておくことから始めます。細かいことは後回しにして,まず英語のしくみがこうなっているということを理解してください。もちろん,細かいことははしょってしまいますから,これが文法のすべてだというわけではありません。また,上から全体を眺めるためには,ある程度の文法知識があらかじめないとできませんが,必要な前提知識についても詳述はせず直観的な説明にとどめておくことにします。
文法の基礎とは何でしょう。わたしは次のようなことではないかと思っています。
- 文には構造があることを理解する。意味を生み出しているのは1語1語の単語(の意味)ではなく,単語が並ぶしくみ=構造 であることを理解する
- つまり辞書に載っている「単語の意味」をテキトーに並べていけば文の訳ができあがり,という考え方は捨てなければならない
- 単語は「文の中でどのようなはたらきをするか」によって分類される。それが品詞であり,品詞を理解することは文のしくみを理解する第一歩となる
- 単語が組み合わさって,句や節を作る。これが文の部品となる。部品の種類は4種類(動詞・名詞・形容詞・副詞)しかない。
ざっと,こんなところでしょうか。
文法についてご存知の方はおわかりのことですが,筆者の創意によるものでもありません。いろんな書籍に書かれている,多くの先生方が説明されている,ごく常識的なことですが,最近の高校生にはこの常識が共有されていない印象があります。やけにこまかいことを知っているのに,こうした基礎的な部分が抜け落ちている生徒を数多く見かけます。たったこれだけのツールを手にするだけでも,英文の読み方はずいぶん違ってきます。英文理解のための必要最小限英文法だと考えてください。
さて,
英文に限らず,ことばは
- 単語が集まって → 句
- 句が集まって→ 節
- 節が集まって → 文
- 文が集まって → 段落
- 段落が集まって → 文章全体
という具合にふくらんでいきます。句や節って何?というはなしは後でします。このうちふつう文法で取り上げられるのは最初の3つで,最後の2つは読解上のポイントになります。ここでは,文 → 句・節 → 単語 を取り上げていきます。
文とは
文とは,こまかく定義するのはめんどうだし不必要なので,とりあえず形の上ではピリオド(クエスチョンマーク(?)やイクスクラメーションマーク(!))までのひとまとまりの流れを言うと理解しておいてください。現実には,"Fire!" 「火事だ」とか,"No."だって,りっぱな文なのですが,ここでは主語と述語を含む「行儀正しい」文を中心に考えていきます。
☆ 文は主部と述部でできている
文 = 主部 + 述部 (主語を太字で,述部をアンダーラインで表示します)
- He has read a lot of books about economics. (彼は経済学についての本をたくさん読んでいる。)
- The girl reading a book over there is one of my classmates. (あそこで本を読んでいる女の子はわたしの同級生のひとりだ。)
主語や述語が何なのかを定義するのはむずかしいのですが,ここでは直感的に理解しておけば十分でしょう。「〇〇が~する」「〇〇は~だ」の「〇〇が」の部分が主語で,「~だ」の部分が述語です。(主語と言ったり,主部と言ったりしていますが,ここではこだわりませんので,おんなじと考えてかまいません)
- 主部は名詞のなかま ( + その前や後ろの修飾語)
- 述部は動詞+X
から成り立っています。ここでちょっとだいじなことは,X の部分に何を入れられるかはその動詞によって決まっているということです。述語部分に出てくる動詞を述語動詞といいます(まんまですが)。
もっとも,述語ということばはそれほど便利な用語ではないので,そんなに使われませんが,説明の都合上知っておいてほしい言葉です。
リーディングやリスニングの際の心理としては,「最初はきっと主語だろうな」と予想しながら読み(聞き)(そうじゃない場合もある),次に「どこから述部が始まるのか,どんな動詞が来るのか」を待ち構え,動詞が決まったら,「この動詞なら次に来るのはあれかな」(OかCかto Vか,など)というような気持ちで英語を処理していくわけです。リスニングの場合はそれをほんの数秒のうちにやらなければなりませんが,慣れればできるのですね,これが。
単語と品詞
ひとつひとつの単語は,文の中でどのような働きをするかによって,これは名詞とか,あれは副詞とかいうように,何か一つの品詞に分類されます。この品詞を理解することが,英語のしくみを理解する上でいちばん基礎になる知識になるでしょう。品詞の名前を覚えることが重要なのではなく,品詞の働きを理解することが重要なんです。でも品詞の名前だってそんなに複雑なわけではありませんから,覚えてしまってください。
名詞とは何かというような,あまり抽象的な定義ではかえってわかりにくいので,例をとおして大ざっぱにわかれば十分です。
品詞 | 例 | 今も増えてるか? |
名詞 | book, water, peace, family, people, John, Tokyo, … | 増える |
代名詞 | he, his, him, this, … (かなり少数) | 増えない |
動詞 | run, know, see, eat, stand, keep, … | 増える |
助動詞 | will, can, could, … (かなり少数) | 増えない |
冠詞 | a, an, the (これしかありません) | 増えない |
形容詞 | beautiful, cold, strong, good, … | 増える |
副詞 | beautifully, already, quite, … | 増える |
前置詞 | in, on, at, during, … (かなり少数) | 増えない |
接続詞 | if, because, while, … (かなり少数) | 増えない |
疑問詞 | who, what, when, where, why, which, how (これプラスあとちょっと) | 増えない |
間投詞(感嘆詞) | Oh, yes, ouch, … | 増えない |
数詞 | one, two, first, second, … (かなり少数のものの組み合わせ) | 増えない |
形容詞と副詞の区別とかはっきりしないものもあるかもしれませんが,あとまわし。最後の2つは忘れても問題ありません。「疑問詞」などはほかの品詞にぶち込むこともできるのですが,独立させておくことにします。それ以外に,不定詞,分詞,動名詞,関係詞などを入れることもできますが,ちょっと話が込み入りますので,別に譲ります。上にあるとおり,代名詞,助動詞,冠詞,前置詞,接続詞などは数が限られている上に,今後そう簡単に増えたりはしません。逆に名詞,動詞,形容詞・副詞は数が多く,特に名詞を中心に新しい言葉が常に生まれています。
繰り返しますが,品詞を考える時にだいじなことは,文の中でどのような働きをするかによって品詞が決まるということです。これは文の主語なので名詞のはずだ...というぐあいです。逆に同じ単語なのに文中での働きが違い,そのため品詞が違うということもあります。そこが日本語文法の品詞と異なっているところでもあります。これは後でもう一回とりあげます。ちょっと先取りしていっておくと,名詞とか動詞とかは直感的にわかるでしょうし,表中に(少数)とあるものは,もともと少ないのでむずかしくありません。ということは,残った形容詞と副詞の区別ができればオーケー,ってわけです。
もうひとつ,英単語はその語尾を見ると品詞がわかるものがあります。-ful で終わる単語は形容詞(beautiful, wonderful)とか,-ify で終わる単語は動詞(identify, simplify)とかです。これらはいっぺんに覚える必要はありませんが,少しずつ慣れていくと品詞の判別が楽になります。
【 問題 1 】
次の文の中で下線部(1) ~ (5) の品詞は何だと思いますか。それぞれ次のうちから選びなさい。同じものを二回以上使ってもかまいません。辞書を引かないで考えて,というか辞書には出ていません(下線のない the と a と very の3つの単語だけが本物。それ以外は存在しないデタラメな単語ですから)。
The (1)dowful(2)ziquengs(3)hixotized a (4)melotion very (5)necredly.
a. 名詞 b. 動詞 c. 形容詞 d. 副詞
↓ ここをクリックすると答がでます。
【 答 】
【 問題 2 】
次の文の中で下線部(1) ~ (5) の品詞は何だと思いますか。それぞれ次のうちから選びなさい。同じものを二回以上使ってもかまいません。辞書を引かないで考えてください。単語・文の意味がわからなくてかまいません。こんどは存在する単語,ほんものの英語です。
(1) He put on blue jeans.
(2) They vacationed abroad.
(3) This project is a go.
(4) Thunderbirds are go!
(5) This book is a must for all students.
【 答 】
要するに,品詞を決定するには,
- 接尾辞(-ful とか-ify)などの特徴から考える
- 活用(-ed とか)やマーク(a や the とか)から考える
- 文中での働きから考える
という作業が必要です。